「女性に対する暴力撤廃信託基金」の2012年度の活動報告書

  • 2013/03/01

女性に対する暴力撤廃国連信託基金に関する2012年度年次報告

    暴力は、数百万の女性・女児から最高基準の精神的・肉体的健康への権利、個人の安全に対する権利、法律による平等な保護への権利、そして極端な場合は、生きる権利さえも含む広範な基本的人権を奪っている。今日の世界で最も広範囲に蔓延している人権侵害であるとも言える。女性に対する暴力は民主主義の国であれ、独裁主義の国であれ、戦時下の国であれ、平和な国であれ、先進国であれ、途上国であれ、どこの国でも等しく見られる。しかし、世界中の勇敢な、ビジョンにあふれる女性や男性、そして若者たちの努力のおかげで、世界は変わり始めようとしている。女性に対する暴力根絶を支援する国連信託基金(国連信託基金)の使命は、こうした変化を求める声を具体的な行動に転換して、女性と女児が安全で自由な、そして尊厳と平等性のある生活を送れる世界を創り出す手助けをすることである。
    国連加盟国の、女性に対する暴力を根絶するための、法と政策の約束を履行する取り組みの力強いシンボルとして、国連信託基金は、1996年、国連総会決議50/166によって設立された。国連信託基金は、この広範に広がりながら、表に現れないことが多い人権侵害の根絶を求める様々な国際機関やジェンダー平等を世界中の数百万人の女性と男性、地域社会にとって生きた現実とさせるための戦いにおける重要な基準点となっている。そして唯一のグローバルな多国間での資金供与を行う機構として、暴力のタイプにかかわらず、また暴力が行われた背景のいかんにかかわらず、女性と女児に対する暴力に取り組んでいる。国連システムを代表してUN Womenが管理する国連信託基金は、このきわめて重要な分野における国連の活動に、相乗作用と一貫性をもたらし、一体となって行動する能力を支えている。2012年~2015年の戦略計画の指針に導かれ、国連信託基金は各国や各地方の政府、NGO団体、国連カントリーチームによる、暴力の防止、被害者へのサービス拡充、女性と女児に対する暴力への制度的な対応の強化を目指すプログラムを支援している。
    女性に対する暴力を根絶するという数多くの複雑な課題に取り組むために、国連信託基金は女性の相互に関係する権利やニーズと取り組む多部門にわたる総合的な介入策に、投資している。国連信託基金受益者の総合的な体験は、女性に対する暴力を根絶する効果的な戦略の核となる4つの要素を例示している。すなわち、被害女性をエンパワーすること、制度的な対応策を強化すること、ジェンダーに基づく暴力の根本原因に取り組むこと、新たな知識を生み出すこと、である。2012年、国連信託基金は第16次基金供与サイクルを完了し、新規に19か国の12件のイニシアティブに840万米ドルを供与した。これらの新たな資金供与によって、国連信託基金の活動中のポートフォリオは、85の国と地域の95件のプログラムをカバーする、総計6,350万米ドル相当価になっている。同信託基金は24,095,516人の女性と女児の生活に関わり、5,256件の公式、非公式の機関に影響を及ぼしている。この報告書は2012年の国連信託基金の歩みと達成した事項を述べている。
    2012年に国連信託基金の供与で成し遂げられたことは、効率的な機関が主導する質の高いプログラムに対する戦略的な支援によって、どれほど多くのことが成し遂げられるかを例証している。同信託基金は世界中の受益者が成し遂げた最善の慣行を記録、評価し、伝播することによって、今後も知識を得て共有していく所存である。同信託基金が毎年、革新的な第一級のイニシアティブの支援によって生みだす資力は、女性と女児に対する暴力根絶に向けたロードマップとなるであろう。

2012年に信託基金を供与された各地域と国の取り組み要約

1)アフリカ

    ケープ・ヴェルデ
    「ジェンダーに基づく暴力に関する特別法の施行のためのプログラム」
    受益団体: ジェンダー平等促進のためのケープ・ヴェルデ・インスティテュート
    期間:3年  供与額 : US$ 566,750

    女性の5人に1人が親密なパートナーから暴力を受けているとされるケープ・ヴェルデでは、2011年1月、ジェンダーに基づく暴力関係法が発布されて以来、「ジェンダー平等促進のためのケープ・ヴェルデ・インスティテュート」がジェンダー平等対策プログラムの一環として、同法の施行の旗振り役を務めている。ジェンダー平等対策プログラムは以下の3項目を.暴力防止と対応の主要領域と定めている。1)学校、男性グループ、メディアを対象にした情報提供、教育によって、暴力の容認を減らす。2)「被害者支援センター」を設置して、被害者救済の改善をはかる、3)女性に対する暴力への取り組み策などの制度的な対応能力の向上をはかる 。また、同団体は国内の女性ネットワークと密接に協力しながら、このプログラムの目的達成に向けて活動している。
    マラウィ
    「マラウィにおける学校関連のジェンダーに基づく暴力を根絶する」
    受益団体 :コンサーン・ワールドワイド
    期間 : 3年   供与額 : US$ 964,618

    学校関連のジェンダーに基づく暴力事件の多いマラウィ、その原因はジェンダー不平等と男女間の力関係の不均衡にあるとされ、この問題の是正に取り組むこのプログラムでは、コンサーン・ワールドが教育省、社会福祉省などの省庁、NGOと協力して女児のための安全な学習環境の構築、暴力問題への認識の向上などによって、学校関連の女児に対する暴力削減をはかる。

2)南北アメリカ・カリブ海諸国

    ベリーズ
    「ジェンダーに基づく暴力に関する国家行動計画の実施」
    受益団体:ベリーズ女性省
    期間 : 3年間 供与額 : US$ 539,350

    ベリーズのジェンダーに基づく暴力に関する国家行動計画は、正式の政府政策として最高の政治レベルで承認され内閣で採用されたものとして、カリブ海諸国で初めてのものである。女性省が先頭に立って同計画の実施にあたり、女性に対する暴力の根本原因を取り除いてその防止に努めるほか、暴力事件の発生頻度、問題の深刻さなど必要なデータ収集にも取り組む。国家行動計画履行の諮問機関であるジェンダーに基づく暴力委員会が諸官庁、市民グループ、国連カントリー事務所の代表を加えて、計画の履行に協力する。
    コロンビア、チリ、エルサルバドル
    「コロンビア、チリ、エルサルバドルで、警察とともに女性に対する暴力に取り組む政策履行の新たな一歩:より安全な女性たち」
    受益団体:Sur Corporación de Estudios Sociales y Educación
    期間 : 3年 供与額 : US$ 994,000

    以前実施されたラテンアメリカの「安全な都市」計画の成功をもとに、 Sur Corporación は、警察と協力して、コロンビア、チリ、エルサルバドルにおける女性に対する暴力への効果的な取り組みを確実にすることを目指して活動する。 特に警察を暴力の防止、対応および女性に対する暴力根絶のための国家法の施行に関与させることとし、警察当局と女性団体との間で町内での女性の安全性について十分な対応のできるよう対話の必要性を重視する。また3国間での情報、良好な慣行についての共有をはかる。
    ペルー
    「性的暴力事件の訴追、救済策の提供を行う司法制度の構築に寄与する」
    受益機関 DEMUS( 女性の権利保護研究所)
    期間 : 3年 供与額 : US$ 430,801

    暴力被害を受けたペルーの女性は、事件処理の政策、訴追の面でジェンダーや人権に対する配慮に欠けた司法制度に苦しむケースが多い。このプログラムは、新たなペルー犯罪手続き法の適用によって、女性の司法へのアクセスを確保し、性的暴力事件の不処罰をなくすことを目指すものである。DEMUSは、司法当局と草の根の女性団体との対話を進める仕組みを国内6地域に設置して、司法を求める女性被害者が直面する司法上の壁を打ち破ることを目指している。

3)アラブ諸国・北アフリカ

    リビア
    「紛争後の移行期にあるリビア における女性に対する暴力に取り組む」
     受益団体:インターナショナル・メディカル・コーポレーション
     期間 : 3 年 供与額 US$ 999,999

    紛争後の移行期にあるリビアにとって、ジェンダーに基づく暴力など、女性と女児に影響を与える問題に効果的に取り組み、地方ならびに国家当局の優先課題とすることが重要である。このプログラムは地方の地域社会と協力しながら、女性の法的地位の向上を促し、ジェンダーに基づく暴力被害者のための安全な避難場所を設置するなどして、その救済策の拡充を目指すことを柱としている。

4)アジア・太平洋地域

    パプアニューギニア
    「女性に対する暴力根絶に関する提唱プログラム」
     受益団体:変革を求める声
    期間 : 3年 供与額: US$ 252,500

    パプアニューギニアでは、伝統的な規範や信仰に基づく法や決定が地域社会に影響を与える結果、女性に対する差別、権利の侵害が目立つ。そこでこのプログラムでは、女性に対する暴力への対応の改善を目指して、地域や部族のリーダー、村や地域の裁判所、警察を巻き込んで、新たな防止法の策定、履行を進め、暴力への対応策ならびに、暴力被害者の救済策の強化をはかるほか、男性や少年たちを巻き込み、メディアとも協力して、暴力の根本的な発生原因を取り除くことにも取り組む。
    タイ
    「バン・マエ・ナイ・ソイならびにバン・マエ・スリン・カレンニ・難民キャンプにおけるジェンダーに基づく暴力への地域ベースの対応策を拡充する」
    受益団体:国際救済委員会(IRC)
    期間: 3年  供与額 : US$ 750,000

    タイのカレンニ地域では、長引く難民キャンプ生活とジェンダーに対する有害な信仰のために、女性と女児がジェンダーに基づく暴力を受けやすい環境に置かれており、最近の調査によると、タイとミャンマー国境近くの難民キャンプでは、20%の女性が生涯に何らかの形の暴力被害を受けていると言われる。このプログラムはジェンダーに基づく暴力への人道的な対応力の強化を目指して、中心となる、カレンニ国家女性組織(KNOW)の被害者救済サービス向上を図ることを目的とする。

5)ヨーロッパ・中央アジア

    アルメニア
    「アルメニア農村部におけるジェンダーに基づく暴力への対応力を強化する」
    受益団体: 女性のリソース・センター
    期間:2年  供与額: US$ 249,960

    1991年の独立以来、数々の経済的・社会的問題の影響を受けたアルメニアでは、女性の経済的・政治的地位が著しく低下し、ジェンダーに基づく暴力が劇的に増加した。総合的な暴力防止法も被害者の救済センターもないうえに、警察官や健康ケア担当者の養成もままならない状態とあって、女性に対する暴力の問題は悪化するばかりである。「女性のリソース・センター」はアルメニア初の女性に対する暴力に取り組む組織として、政府による2011~2015年ジェンダーに基づく暴力対処行動計画の履行の後押しをし、被害者救済策の拡充、暴力反対への認識の向上をはかる。
    セルビア共和国
    「セルビアにおける女性に対する暴力への総合的対策」
    受益団体:国連カントリーチーム(UNDP, UNICEF、UN-Women)
    期間:2年 供与額: US$ 999,648

    セルビアは、ジェンダーに基づく暴力削減を目指す法律を批准したものの、その実施については数々の課題が残っている。また経済的危機の影響を受けた結果、女性の権利に関する戦略計画や法律施行に関わるジェンダー平等メカニズム(GEMS)への予算割当が削減された。国連カントリーチームは、暴力防止・保護対策によって女性に対する暴力に取り組む制度的な対応策の制定に尽くすとともに、新たな教育計画や社会的キャンペーン活動を含む子どもや青少年向けの認識向上を図るプログラムを推進する。
    地域横断的事例
    コンゴ民主共和国、スーダン、ウガンダ、リビア
    「ICC調査対象国におけるジェンダー公正を促進させる」
    受益団体:ジェンダー公正のための女性のイニシアティブ
    期間:3年  供与額: US$ 730,000

    国際刑事裁判所(ICC)の調査対象となっている武力紛争中あるいは紛争後の国々では、ジェンダーに基づく暴力事件が多発しているにもかかわらず、これを取り締まる責任体制が不備であり、しかも女性は和平構築過程や司法の場から除外されているため、被害者に対する支援も限られている。 こうした状況に対処するため、法廷助言者の地位を与えられている唯一の国際女性機関である「ジェンダー公正のための女性のイニシアティブ」は 紛争後復興政策、移行期の司法制度を立て直す取り組みを始める。 武力紛争地帯のジェンダーに基づく犯罪について地元で信頼できるデータをつくるための記録作成能力を強化するほか、遠隔地に戦争被害を受けた女性を収容するモデルハウスを建設して、被害者の医療や精神面の支援を行う予定である。
    ケニア、ウガンダ、コートジボアール、コロンビア、チュニジア、ネパール
    「移行期の司法:ジェンダーに基づく暴力に取り組み、女性の参画を確実にする」
    受益団体:移行期の司法のための国際センター (ICTJ)
    期間: 3年 供与額 : US$ 966,496

    紛争下においては女性に対する暴力が劇的に増加し、女性が自身の権利を守るための依頼先も著しく限られる。また、紛争が女性に与える影響について認識は高まっているものの、女性は和平構築や司法へのアクセスの点で置き去りにされたままである。このプログラムはチュニジア、ネパール、コロンビア、コートジボアール、ケニア、ウガンダにおける移行期の司法の仕組みをジェンダーに基づく暴力被害者の司法面でのニーズへの取り組みが改善される形に改善することを目的としている。また、被害女性や権利を求める活動グループと協議して、彼女たちの司法面の優先事項やニーズを査定し、6か国の策定した戦略情報を交換して、ジェンダー問題を今後の司法計画に取り入れることを目指す。

  
            訳:平野和子 UN Women日本国内委員会 理事        (2013年2月20日)

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