ベトナムエイズ関連プロジェクト( 2014-2016)の最終報告書をアップしました。

  • 2016/07/31

HIV感染女性の能力構築:「自分の権利を知って権利請求をしよう」 2014-2016

プロジェクト最終報告書

UN Womenベトナム事務所

2016年6月

 

2014年以降、UN WomenとUNAIDS(国連合同エイズ計画)は、国連女性差別撤廃条約(CEDAW)に基づいて、ベトナムHIV感染女性のネットワーク(VNW+)に対し、自分の権利を理解して主張する女性の能力構築を共同で支援しています。中でも、CEDAWの定期報告制度によりベトナム政府が提出した第7回、8回の報告の検証が2015年7月に行われることになっていたため、その機会を捉えて本プロジェクトが実施されました。VNW+は初めてこのプロセスに参加し、他の20の市民団体(CSO)と一緒にシャドウレポート(NGOレポート)のドラフト作成に取り組みました。このレポートは2015年6月にCEDAW委員会に提出され、その結果、委員会の総括所見にHIV感染女性(WLHIV)の状況に関して具体的な勧告が盛り込まれました。VNW+は現在、ベトナム政府や他のCSOと協力しながらCEDAW委員会勧告の実施プロセスに参加しています。

 

プロジェクトの全体的成果

  • プロジェクトは、HIV感染女性のエンパワメントを進め、女性が自分の権利を理解し、さらに社会から受けるスティグマと差別をなくし、各種サービスへのアクセスを高めるために、政策提言をおこなったり、そのような女性たちが意思決定のプロセスに参加できるようになるための有意義な貢献をしました。

 

2014年8月、ハノイに集まったHIV感染女性グループのリーダーたちは、感染女性が直面している課題を取り上げ、CEDAWを通してどのように自分たちの権利を主張すればよいかを学びました。ベトナム各地から集まった25人のリーダーたちはお互いの経験を分かち合い、HIV感染者の権利について話し合いました。参加者の多くが、学校、病院、職場、その他の生活の場面などで実際に差別的な扱いを受けた経験がありました。3日間の研修の間に、参加者は女性の権利侵害とはどういうものかを確認し、CEDAWについて学び、CSOがCEDAWの報告プロセスに参加できることも学びました。これは、感染女性の生活改善を目指して変化をおこす具体的な提言計画を策定する上での基盤になりました。

CEDAW報告制度を利用した参加

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研修を受けて以前より強くなり、お互いのことがより理解できるようになっただけでなく、自信がつきました。CEDAWのシャドウレポートで、HIV感染女性である私たちが自分の権利を主張することがどんなに大切かも分かりました。このような重要なプロセスに参加できるとは思ってもいませんでした。今回のような参加型の研修のおかげで内容を短期間で理解することができました。効果的なロールプレイングを通して、提言活動に必要な対人能力を身につけることができました。

-クワック・チ・マイVNW+議長

 

HIV感染女性を対象とした研修に続いて、VNW+の主要メンバーの2人が他の女性の権利団体と一緒にCEDAWのシャドウレポートの作成に関する研修を受けました。この研修でレポートのドラフト作成作業が始まり、VNW+はこの作業チームの正式な委員となりました。実際に、VNW+のメンバーの1人が、健康に関する権利(健康権)のセッションのリーダーとしてデータ収集やドラフトの取りまとめを行いました。このようにして、2014年10月に24のCSOが合同でCEDAW会期前作業部会に質問事項を提出しました。これにはHIV/エイズに関連する質問事項が含まれており、CEDAW委員会がベトナムのCEDAW条約の実施状況を審議する際にHIV/エイズに関する質問も検討することになりました。

ce02ドラフト作成委員はその後もシャドウレポート作成に取り組み、GENCOMNET(ジェンダーとコミュニティ開発ネットワーク)、DOVIPNET(ベトナムDV防止ネットワーク)、NEW(女性のエンパワーメント・ネットワーク)の3つのCSOネットワークが「ベトナムにおける女性差別撤廃条約の実施報告書2007-2015」をCEDAW委員会に提出しました。最終的には、21のCSOがシャドウレポートの提出に正式に参加したことになります。レポートには、NGO、政府機関、国際機関、研究機関、大学やメディアなど41の関係機関が参加した審議会の中で集約された見解も記載されました。

VNW+がリーダーを務めた健康権についてのセクションには、HIV感染女性がヘルスケアを受ける際に直面する問題に関するデータ、特に母子感染予防のデータが含まれていました。レポートには、これらの問題に対処するために、医療ケア専門家の育成と、HIV感染女性への適切な医療ケア設備の提供という2つの提言が盛り込まれました。健康・HIV/エイズに関する法律・政策相談センター(HIV感染者に法的サービスを提供するNGO団体)、リプロダクティブヘルス・ファミリーヘルス協会など、HIV感染女性に関する問題に取り組むVNW+以外の団体もシャドウレポート作成に参加しました。

 

シャドウレポートや他の文書に記載された内容に対して、CEDAW委員会が出した第7回、8回のベトナム政府定期報告に関する総括所見では、以下の見解と勧告が述べられました。

 

長期的な関係を持つ男性パートナーが原因でHIVに感染する女性の数が増加し、HIV感染女性に対するスティグマと差別が増大している。

HIV感染女性に対するスティグマや差別に取り組み、感染リスクの高い行動をとる男性やHIV陽性の男性を含む男性には、パートナーへのHIV感染を減らすための男性の役割について啓発するため、「HIV予防とコントロールに関する法律(2006)」の施行を強化する1

これは、HIV陽性女性や感染女性の課題を含め、ジェンダー平等の課題についてのシャドウレポートが、条約機関に対してHIV感染女性

2015年9月の第61回CEDAW会合後の報告会で発表するVNW+メンバーのライ・ミン・ホンさん

2015年9月の第61回CEDAW会合後の報告会で発表するVNW+メンバーのライ・ミン・ホンさん

の権利に特化した見解や勧告を行うよう影響を与えることができるということを示しています。

2015年7月開催の第61回CEDAW会合に続いて、VNW+は、他の女性の権利市民団体と共同で、次の報告時期である2019年までCEDAW勧告がどのように実施されているかを追跡するモニタリング体制を確立するための審議会を組織しました。この共同モニタリング計画は2016年6月に確定し、2017年に中間報告書が出されます。

VNW+は、CEDAW委員会の勧告を実施するためのCEDAW国家行動計画を策定する政府主導の審議会にも参加しています。この中で、VNW+はシャドウレポートで取り上げた課題を提示し、行動計画に含める具体的な行動を提案しました。行動計画は2016年末までにはベトナムの首相の承認が得られる見込みです。

 

政策提言能力を構築する実践的な経験

CEDAW報告に向けてCSOが共同で行った提言活動には、それぞれ優先事項が異なる多数の団体が参加していたので、UN Womenは2015年8月に、VNW+の代表10人とHIV感染女性を支援する3つのCSOとで協議会を開催しました。そこでHIV感染女性特有の課題を議論し、提言活動にCEDAW勧告を活用するための計画を話し合いました。その議論の中で明らかになった各分野共通の問題は権利侵害の証拠文書の不足であり、これが提言活動拡大の課題であることがわかりました。前進するための方策として、VNW+は法律扶助法の改正が様々な分野でおこっているHIV感染女性への差別に対応するため司法へのアクセスを高める1つの手段であると判断しました。CEDAW委員会は勧告の1つに、差別に関する女性の法律扶助アクセスを高めることを挙げています。

 

HIV感染女性の法律扶助アクセスに関しては、ベトナム国内外の法律専門家による詳しい書類調査が実施され、2015年12月に法務省管轄の法律扶助庁とVNW+などのCSOが出席したワークショップでその暫定的な結果が発表されました。その調査で、法律扶助にアクセスできるHIV感染者はほとんどいないということが分かりました。性別データの不足からジェンダー分析はもともと困難でしたが、ワークショップの参加者からの情報により、HIV感染女性は法律扶助を受ける資格があることを証明する書類の入手などで困っていることが分かりました。

 

1「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」委員会 第7回・第8回ベトナム政府定期報告に関する総括所見、2015年7月24日、CEDAW/C/VNM/CO/7-8、32-33段落。

 

また、HIV感染者の多くを占める女性のセックスワーカーは、公共サービスへのアクセスが特に難しいこともわかりました。

 

これを受けて、VNW+やCSOなどの地域に根ざしたネットワークの提言能力を構築し、法律扶助法改正に向けた共通の提言計画を策定する目的で、2016年3月にワークショップ型の研修が開催されました。HIV感染女性ネットワーク、セックスワーカー、LGBTI(女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、性別越境者、インターセックス)グループ、麻薬愛用者、その他のCSOから36人が集ったこの研修は、法律扶助へのアクセスに関する課題や満たされていない法的ニーズについて議論するまたとない機会になりました。参加者が繰り返し述べたのは、公務員による権利侵害や法制度への不信でした。法律扶助の利用手続きには個人の身元を開示する必要があり、これが利用を阻む大きな共通課題の1つになっていました。参加者は、法律扶助法は平等を保証して利用者のプライバシーを守るべきであるという点で合意し、同時に、サービスの質向上のためにCSOが法律扶助の提供をモニタリングする役割を担うという認識に至りました。

 

研修後、16人のメンバーが提言計画を実施するための作業部会を作り、その中の数人は、この提言内容を伝えるために、法務省が実施する法律扶助法改正の審議に積極的に参加しました。提言を裏付ける証拠をさらに収集する計画が進行中であり、提言活動は改正法律扶助法の採択が予定される2017年まで続きます。地域に根ざしたさまざまなネットワークとCSOを結束させた今回の方法によって、政策提言の協力体制が築かれました。目に見える変化として、国の政策を話し合う場において自分たちの権利を主張するVNW+の自信が高まりました。VNW+やCSOがそれぞれの権利を守るために政策提言に効果的に関わるために必要なリーダーシップや提言能力の向上に向けて、UN Womenは今後も支援を継続していきます。

 

プロジェクトの具体的成果

プロジェクトの成果 具体的成果
1 HIV感染女性代表者のリーダーシップスキルが高まった VNW+は、

・健康権に関してシャドウレポート作成チームをリードした

・政府および市民団体主催のワークショップにおいてHIV感染女性に関する問題について発表した

・ジェンダー評価の迅速な実施に向け保健省のエイズコントロール管理局(VAAC)が設置したタスクフォースに参加した

2 ベトナムのシャドウレポートのドラフト作成・提出に関わるすべての意思決定と活動にHIV感染女性代表者が参加し貢献した ・CEDAW会期前会議作業部会に質問事項を共同で提出した

・「ベトナムにおける女性差別撤廃条約の実施報告書2007-2015」を共同で提出した

3 CEDAWや戦略的情報を含む人権・女性の権利分野のスキルをもつ女性団体(特にHIVに感染している、あるいはそのリスクが高い女性の団体)や市民社会パートナーの能力を強化し、ベトナムのHIV/エイズ対応で足りないところに効果的に取り組めるようにした ・VNW+の25人が、ベトナムで「自分の権利を知って権利請求をしよう-CEDAW報告制度をとおして-」ワークショップに参加した

・VNW+の2人が、CSOの若いメンバーや今まで除外されてきた人権団体代表者を対象とするCEDAW実施モニタリングの研修に参加した

・VNW+の3人が、ジェンダーと女性の人権に関する研修に参加した

・VNW+の3人が、活動に欠かせないコミュニケーション研修に参加した

・VNW+の2人が、法律扶助法改正に向けた政策提言を行う研修に参加した

4 HIV感染女性の差別に対処するため市民社会、特に女性の権利団体、HIV感染女性ネットワーク、学術組織や国連機関などとのパートナーシップを強化した ・VNW+は、50以上のCSOと協力してシャドウレポートのドラフト作成やCEDAWモニタリングのフレームワーク策定に携わり、特にGENCOMNET、健康・HIV/エイズに関する法律・政策相談センター、キッズ・サングループ、リプロダクティブヘルス・ファミリーヘルス協会などのHIV感染者を支援するCSOとのパートナーシップを強化した

・VNW+は、セックスワーカー、LGBTIグループ、麻薬愛用者やCSOなどの他のネットワークと一緒に、法律扶助法改正に向けた活動に参加した

 

優良事例と学んだ教訓

このシャドウレポートはHIV感染女性に関する課題だけを扱ったものではありませんが、多様な考えをもつ多くのグループの女性代表者が参加したことにより、政府報告2に代わる見解を発表する上で、このCSOのネットワークの信頼性が高まり、強力なものになりました。シャドウレポートのドラフト作成には、HIV感染女性、障害のある女性、少数民族の女性、若い女性、LGBTなどの過小評価されている女性グループも広く参加しました。これによりさまざまな女性グループの多様な考えや経験を反映する包括的なプロセスが確保されました。CEDAWの総括所見およびシャドウレポートの所見や勧告は、UNAIDSの技術支援を受けてUN Womenと保健省管轄のベトナムエイズコントロール管理局(VAAC)が共同で実施する迅速なジェンダー評価に活用されました。

 

VNW+がシャドウレポートの作成に参加する前は、地方官庁と交流はあったものの政府との対話に参加する機会やその能力は限定的でした。国連の支援は、提言能力構築、政府と市民社会との対話をとおしてVNW+の政策提言能力向上を後押しし、政策と法律の策定プロセスへの参加を促進しました。国連の強力な支援によってVNW+はエンパワーされ、実際に提言計画を立てて自分たちの正当な権利を主張しました。また、証拠に基づいて自分たちの権利を主張する提言活動のために戦略的情報の作成にも参加しました。

 

プロジェクトの資金

認定NPO法人 国連ウィメン日本協会 10,000米ドル
戦略的予算計画(UBRAF) 20,000米ドル
合計 30,000米ドル

2国連ベトナム事務所(2014)。ベトナムにおける説明責任の参加型モニタリング:ポスト2015の枠組みの「実施手段」についての対話、p.27。
翻訳協力:溝口啓子(実務翻訳スクール.com)

Categories: News, 本部

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