ニュース

> ニュース一覧 > マノスフィアとは何でしょうか。なぜ私たちは関心を持つべきなのでしょうか
活動現場から

マノスフィアとは何でしょうか。なぜ私たちは関心を持つべきなのでしょうか

オンライン上のミソジニー(女性に対する蔑視や嫌悪)は、学校や職場、個人的な人間関係にまで浸透しています。その起源と拡散の仕組みについて詳しく学びましょう。

 

2025515

イラスト: UN Women/Poompat Watanasirikul

 

55億人以上がオンラインで活動し、ほぼ同数の人がソーシャルメディアを利用している現在、デジタル空間は私たちの学びやつながりの中心となっています。しかし、インターネットには利点があると同時に、それは、憎悪、虐待、ミソジニーを拡散する手段としても利用されています。

そうしたデジタル世界の一角で拡大しているのが「マノスフィア」と呼ばれるオンライン・コミュニティです。これは、男性の悩み——例えば恋愛、健康、父親としての役割など——に対処するものであると主張する緩やかなネットワーク・コミュニティですが、しばしば有害な助言や考えを助長しています。国連事務総長の「女性と少女に対する暴力に関する報告書」が指摘するように、こうしたコミュニティのグループはフェミニズム反対を共通の立場とし、男性を現在の社会情勢や政治情勢の「被害者」として歪曲して描いています。

マノスフィアのコンテンツは注目を集めてもいます。男性の健康分野の主要な団体であり、UN Women(国連女性機関)のパートナーであるMovember Foundation(モーメンバー財団)によると、若年層の男性の3分の2がオンラインで男性性に関するインフルエンサーと定期的に交流しています。専門家は、マノスフィアにおける過激なことば遣いの流行は、女性や少女に対する暴力を正常化しているだけでなく、過激化や極端な思想との結びつきを拡大していることを指摘しています。

UN Womenとそのパートナー組織は、オンライン上のミソジニーデジタル虐待に対抗するために活動しています。有害な男性性を是正する研究、政策提言、サバイバー支援、プログラム、キャンペーンを通じて、デジタル空間をすべての人にとってより安全で平等な場所にすることに取り組んでいます。

 

マノスフィアとは何ですか?

マノスフィアは、男性とは何かという定義を狭く攻撃的なものとして推進し、フェミニズムとジェンダー平等が男性の権利を犠牲にして実現されたという虚偽の物語を拡散するオンライン・コミュニティの総称です。こうしたコミュニティは、感情のコントロール、物質的な富、外見、特に女性に対する支配力が、男性の価値を示す指標であると主張しています。

マノスフィアは、ソーシャルメディア、ポッドキャスト、ゲーマーのコミュニティ、デートアプリなど、ほぼすべてのデジタル空間で男性層をターゲットにしています。マノスフィアの多くの参加者が、男性の問題についてオープンに議論したり学んだりするための場を探している際に、マノスフィアと関わることになっています。しかし、そのコンテンツは男性の自己改善に焦点を当てているように見えても、こうしたグループの多くは、他人を貶めることで自分を向上させるよう男性に促すなど、不健康な行動を促進しています。

 

なぜマノスフィアが若年層の男性にオンラインで支持されるのか

マノスフィアの過激なコンテンツは、孤立感を感じている若年層の男性の間で最も支持を集めています。UN Womenのパートナーであり研究グループであるEquimundoの「2023年アメリカ男性の実態」報告書によると、若年層の男性の3分の2が「誰も本当には自分のことを理解していない」と感じています。

実際、デジタル空間にコミュニティを求めることは自然なことです。多くの人がオンライン上で自己アイデンティティを築き、興味を育み、同じ考えを持つ人々を見つけているのです。若い男性は、フィットネスやデート、あるいは暗号資産に関するヒントを探しているうちに、マノスフィアのインフルエンサーに偶然出会うことがあります。モーメンバー財団の調査では、多くの人がそのコンテンツを楽しい、またはモチベーションを高めるものだと答えています。

マノスフィアの自称ライフスタイルコーチたちは、個人の責任というものを教えるのだと謳って若年層の男性を惹きつけてきました。しかし皮肉なことに、男性が直面する課題の本質に迫る自己探求を促す代わりに、彼らは男性が社会の「ミサンドリー」(男性に対する偏見)の被害者だと主張します。

国連事務総長の報告書は、マノスフィアの拡大は、女性の平等を実現するための努力を男性に対する差別であると見なす保守主義が若年層の男性の間で広がっている現象と一致していると指摘しています。UN Womenとアンステレオタイプ・アライアンス(Unstereotype Alliance)の調査によると、高齢層の男性に比べて若年層の男性の方がジェンダーの役割に関して固定観念のある見方をする傾向が強いことが明らかになっています。

 

マノスフィアの思想:マノスフィアが女性をどのように描いているか

マノスフィア内の様々なグループがすべて同じ信念を共有しているわけではありませんが、多くのグループは女性と少女に対する偏見と憎悪であるミソジニーで結ばれています。多くの点において、マノスフィアは反フェミニスト運動の長い系譜から派生したものです。

こうした主なマノスフィアのグループは、次のようにジェンダーに基づく神話、疑似科学、嘘を拡散しています:

  • インセル(incels: involuntary celibates不本意な独身者・禁欲主義者 ):男性は性行為をする権利を有し、女性が意図的にそれを奪っていると主張。過激なインセル文化は強姦や暴力を奨励し、人種差別や同性愛嫌悪など他の思想と結びついています。インセルは大規模な暴力行為とも関連付けられてきました。
  • 男性の権利活動家(MRAs: Men’s Rights Activists:フェミニズムと女性の権利(投票権、教育権、リーダーシップポジションへのアクセス権など)が男性を不利な立場に追いやっていると主張するにあたって、よく学術的なトーンで語ります。MRAsの唱道者たちは、社会が女性中心主義的であり、つまり女性的な利益に支配されていると主張します。
  • ピックアップ・アーティスト(PUAs: Pick-Up Aartists:メンバーに、女性を強制的に性行為に及ばせる方法を教えたり、性的な同意の概念を軽んじます。
  • 「我が道を行く男たち運動」(MGTOW movement: Men Going Their Own Way movement:社会が男性に不利に偏っているとし、女性や主流社会を全て避けるべきだと主張します。

マノスフィアにおける性差別的なヘイトスピーチには、他に次のようなものがあります:

  • レッドピル(赤い薬)思想、またはレッドピルを飲むこと:これは、世界が男性よりも女性を優遇しているという現実を悟ることを意味します。映画『マトリックス』にちなんで、この思想に反対する人はブルーピル(青い薬)を飲んだと表現されます。
  • AWALT:「すべての女性はそうである」(All women are like that)という表現は、女性をステレオタイプ化する目的で用いられます。
  • フェモイドまたはFHOs:「女性型ヒューマノイド生物」(female humanoid organism)は、女性が男性だけでなく人間よりも劣っているという侮蔑的な表現。
  • ハイパーガミー:女性が身体的に魅力的で経済的に成功した男性と結婚することに執着していることを軽蔑的に指す表現。

 

現実世界への影響:いかにしてジェンダー・ステレオタイプ(ジェンダーに関する固定観念)がすべての人に害を及ぼすか

マノスフィアにおいては、誰もが損を被ります。ミソジニーとジェンダー不平等は、女性だけでなく男性にも害を及ぼしますEquimundoのグローバルデータによると、ジェンダーに関する制限的な考えを持つ男性は、リスクテイク(危険を承知で行動すること)や薬物乱用などの有害な行動に走る可能性が高く、また、うつ病や自殺念慮に陥りやすい傾向もあります。

マノスフィアにおける男性に関するジェンダー・ステレオタイプは、循環的な役割を果たしています。少年や男性が感情や問題についてオープンに話すことを奨励されない場合、彼らは関係の問題、父親としての役割、不安、性の健康などに関するアドバイスを得る場所として、これらのオンライン・コミュニティに惹きつけられる可能性があります。

Movemberの調査では、男性性に関するインフルエンサーと積極的に関わる若い男性は:

  • 無価値感や不安感のレベルが高い
  • 怪我をしていても、パフォーマンス向上サプリメントを摂取したり、トレーニングを続ける可能性が高かった
  • メンタルヘルスを優先する可能性が低かった
  • 男性の友人たちについて、富や人気を重視する傾向が強かった

と報告されています。

マノスフィアにおける女性に関するステレオタイプは、女性を阻害する神話や階層構造を助長しています。UN Womenのジェンダー平等推進イニシアチブ「HeForShe」を支援する国際調査によると、Z世代の層がオンライン上の性差別的な言説に最もさらされていることが明らかになりました。一方、今日の若い男性は、年配の男性よりもジェンダーの役割に関する後退的な考え方を持っている傾向が強く、これは、困難な努力により獲得されてきたジェンダー平等における成果を逆転させ得る反動を意味しています。

 

データが示すマノスフィアとオンライン上のミソジニー

  • 有害な誤情報の拡散Equimundoの調査によると、調査対象の米国成人男性の40%と若年層男性の半数が、マノスフィアから発信される「男性の権利」、反フェミニズム、暴力支持などの声を1つまたは複数信頼していると回答しています。
  • デジタル空間の安全HeForSheの調査によると、男性の大多数(69%)と女性の大多数(72%)が、ソーシャルメディアで目にする性差別的な言葉遣いについて懸念を抱いています。
  • オンライン上の暴力のリスクあるグローバルな調査では、少女と若い女性の58%が、何らかの形のオンライン・ハラスメントを経験していることが明らかになりました。
  • 過激化のリスク:マノスフィアに参加する男性や少年の一部は、社会の主流からの疎外感を感じています。たとえより過激なコンテンツへと深入りするユーザーが比較的少ないとしても戦略的対話研究所(ISD)の研究によって、そうした経路が確実に存在していることが示されています。

このようなリスクにより適切に対応し、女性に対する暴力をもっと防止できるよう、UN WomenEquimundoはオンライン上のミソジニーと過激化との関連性を研究しています。この取り組みは、「女性と少女に対する暴力根絶のためのACTプログラム」の一環として実施されており、アイスランド政府と欧州連合(EU)から多大な支援を受けています。

 

次に何が起こるのでしょうか?

マノスフィアとは何か、そしてそれが若者、男性、女性に対してどのような影響を与えるかについて学んだ今、この解説の第2部「マノスフィアの有害な影響に対抗する方法(英文)」で、その極端な思想や有害な男性性の概念を退ける方法を学びましょう。

 

(原文)
https://www.unwomen.org/en/articles/explainer/what-is-the-manosphere-and-why-should-we-care