ニュース

> ニュース一覧 > 【15のストーリー No.2】ラテンアメリカの「ケア労働」革命とその主人公たち
活動現場から

【15のストーリー No.2】ラテンアメリカの「ケア労働」革命とその主人公たち

 2025年7月、UN Women(国連女性機関)は設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。

ラテンアメリカの「ケア労働」革命とその主人公たち
~家事を見える化して経済を再構築しよう~

第2話の舞台は、ラテンアメリカ。ただ働きが当たり前だった“ケア労働”に光を当て、社会変革の力に変えていく女性たちの姿に迫ります。私たちにも無関係ではありませんよね。


 

料理、洗濯、子どもの世話、親の介護——。家事は「やって当たり前」。世界全体で見ると、なんと毎日125億時間もの無償のケア労働が行われています。特にラテンアメリカでは、女性と少女が男性の最大3倍もの時間を無償のケア労働に費やしています

しかし、もしケア労働が「見える化」されたらどうでしょうか?

もしケア労働が正しく評価され、適切に支援されたらどうでしょうか?

UN Womenの支援を受けて、ラテンアメリカ全域でケア労働革命が進行中です。

学校や病院、道路が社会に不可欠な公共インフラなのと同じように、ケア労働だって家庭内の女性の責任に閉じ込められるのではなく、社会全体で共有されるべき責任だ、という「ケアシステム」への変革です。この新しいシステムへの投資は、女性の負担を軽減するだけではなく、家族、地域社会、経済、そして、社会全体を強化し、その可能性を広げています。

■「私の仕事が評価されていると思ったことなんてこれまで一度もなかった」
~“家事労働者”の権利のための闘い

ルシレイジ・マフラ・レイスさん|ブラジル・家事労働者活動家

写真:UN Women/ ラリ・マレコ

ブラジルの家事労働者連盟の代表を務めるルシレイジは、農業労働者の家庭に生まれ、9人きょうだいの大家族で育ちました。父親は女性が勉強することを許さず、また、町から町へと移動することが多かったので、15歳になるまで学校に通うこともできませんでした。10代のうちに、兄が暮らす都市部の家で無給で働くことになりましたが、同居の家族からの搾取や暴力にさらされました。「もう二度と自分も、他の誰も、あのような屈辱を受けることがあってはならないと自分に誓ったの」とルシレイジは語ります。こうした経験からルシレイジは活動家として闘うようになりました。

「私の仕事が評価されていると思ったことなんてこれまで一度もなかったのよ。だけど、この『Ver-o-Cuidado(ケアを見よう)プロジェクト』を通じて、自分たちの声を聞いてもらうために政治的な場に参加する心構えができたわ。このプロジェクトは、家事労働者の権利のための私の闘いを強化する多くの機会・経験・学びの世界を開いてくれたんです。」

◆『Ver-o-Cuidado(ケアを見よう)プロジェクト』とは?

2022年にUN Womenの支援によって始まったプロジェクト。これによりブラジル北部の市で「地方自治体ケア政策」という新しい試みがスタートし、全国的なケア政策のモデルケースとして注目されています。70人の公務員、300人以上の女性介護者や市民社会リーダーが介護政策の研修を受け、eラーニングで全国に拡大。さらに、女性団体によって介護活動家ネットワークが設立され、介護政策の推進が進められています。


 

■「育児・介護を担う女性のメンタルヘルスは最優先事項。ただ生きていくためだけでなく、尊厳を持って生きていくために。」

メレディス・コルテス・ブラボさん|チリ・草の根活動家/ケア担い手ネットワーク創設者

写真:メレディス・コルテス・ブラボ

二人の子どものお母さんでもあるメレディスは、地域で育児・介護を担う女性(ケアギバー)たちと共に、草の根の支援ネットワークを立ち上げ、ケアギバーにとって必要なのは「物理的な支援」だけでなく「心の回復」だと訴えてきました。

彼女は自分の経験をもとに、ケア労働を「見えないもの」、「評価されないもの」から「社会が尊重すべき権利」へと変えていく活動を行っています。

見えない無償のケア労働について問われると、

「私たち女性は、子育てか仕事かの選択を迫られてしまう。なぜなら、私たちの社会システムは、あたかも女性がケア労働を担っていないかのように設計されているから」メレディスはそう答えます。

草の根支援がなぜ重要なのでしょう?

「それは、木に多くの枝を茂らせるようなもの。政府や公的なプログラムでは決して届かない場所にまで支援を届かせることができる。女性団体に投資することは、生きているネットワークを強化することになるんです。」

◆ UN Womenの持つスキルが新しい法律や国家システムの導入を促進

UN Womenは、チリのように国をあげて野心的にケアシステムを構築する取り組みをサポートしています。
– 今後数年間で7万5千人への支援拡大を目指しているチリでは、これまでに公聴会を通じて、12,000人以上(そのうち80%が女性)がケアシステムの形成に関わりました。
– 既に151の自治体が地域支援・ケアネットワーク(RLAC)を通じてサービスを提供していて、2026年までに全国展開することが計画されています。

なぜケアシステムは経済インフラとして不可欠なの?

ケアシステムは、女性と家族が有給労働と無償のケア労働を両立させるのを支援するだけでなく、経済的・社会的インフラの重要な柱となります。

国がケアに投資する効果:

  • 新たな雇用を創出 – 2035年までに世界中で最大3億件の新たな雇用を創出(特に女性を対象に)
  • エネルギー効率が高く、地域に焦点を当てた、環境保護につながる雇用を創出 
  • より多くの女性が労働市場に参加し継続することを後押し
  • 生産性と経済成長を促進
  • 公的医療の充実 
  • 子どもの教育と発達を支援 
  • 危機への耐性を強化 – パンデミックから気候災害まで 
  • 有給の介護職の増加がもたらす所得の向上、税収の増加、福祉制度の強化

★「見えなかった経済」が数字に表れた!
 ケア労働をGDPに組み入れると?コロンビアではGDPの19.6%、チリでは25.6%を占めると試算

「ケアからはじまる経済」が女性たちの未来を変えていく

ケアは、ただの家庭内の役割ではありません。それは地域を支え、経済を回し、社会の連帯を育む力です。ケアが“見える”ようになったとき、女性たちは変わり、社会が動き始める。ラテンアメリカの女性たちは、長年見過ごされてきた「ケア」という営みに、尊厳と選択の権利を取り戻そうとしています。

UN Womenは、ケアの未来を女性たちとともに描き続けます。

(出典)
https://www.unwomen.org/en/news-stories/feature-story/2025/06/in-latin-america-were-not-just-recognizing-care-work-were-rebuilding-economies-around-it

https://lac.unwomen.org/en/stories/noticia/2025/06/lucileide-mafra-reis-necesitamos-que-mas-mujeres-participen-y-amplien-sus-conocimientos-sobre-sus-derechos

https://lac.unwomen.org/en/stories/noticia/2025/06/meredith-cortes-bravo-cuidar-no-puede-seguir-siendo-algo-invisible