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活動現場から

【15のストーリー No.3】DVの壁に挑むために~沈黙を破ったカザフスタンの女性たち〜

 2025年7月、UN Women(国連女性機関)は設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。

DVの壁に挑むために~沈黙を破ったカザフスタンの女性たち〜

第3話は、中央アジアのカザフスタンから、ドメスティック・バイオレンス(DV)を終わらせるために行動するサバイバーと支援者たちの物語をお届けします。


沈黙を強いられていた女性たちと、改革を促した市民の怒りの声

カザフスタンでは2017年にドメスティック・バイオレンス(以下DV)が刑事罰の対象から外されました。これにより、親密なパートナーからの虐待は、家庭内の問題として片づけられることになりました。「夫は長年私を虐待していたの。やっとの思いで警察に行ったけど、“個人的な問題なので”って和解を勧められただけ。だから申し立てもできず、何の支援も受けられなかったのよ。」(自分は古めかしい法と社会の態度に裏切られたのだと語った45歳の女性)

そんな中、2023年に社会を揺るがす事件が起きます。元大臣の夫に殺害された「サルタナト・ヌケノワ事件」に国内外から怒りの声があがったのです。(元大臣が結婚して1年にも満たない若い妻をレストランで暴行し放置して死なせた事件。防犯カメラに写っていた衝撃的な映像がニュースで流れ注目を浴びた。)この事件はカザフスタンや周辺諸国におけるDVやフェミサイド(ジェンダーを理由とする女性殺害)の残酷な現実を浮き彫りにし、議論と抗議行動を呼び起こしました。UN Womenも、DVが法的責任と国家の責任を伴う重大な人権侵害として扱われるよう働きかけました。

2024年4月、カザフスタンの大統領は「女性の権利強化と子どもの安全保障に関する法律」に署名。DVの刑事罰が復活しました。女性に対する虐待が横行し、“よくある家庭内の問題”とされるのを許してきた沈黙は、ついに打ち破られたのです。

一緒に写真を撮るサルタナト・ヌケノワさんと兄のアイトベク・アマングルディさん(2017年撮影)。兄はこの事件をきっかけにサルタナト・ヌケノワ記念財団を設立、ボランティアのネットワークを構築し、ジェンダーに基づく暴力のサバイバーを支援する活動を展開している。写真提供:Aitbek Amangeldi

■ DV根絶を阻む壁に挑む

アンナ・リルさん|女性の権利擁護活動家

Photo: UN Women/Roman Gussak

この活動を行っているのは、目を背けることができないから

アンナはUN Womenの市民社会諮問グループのメンバーです。もう16年以上前のこと、「暴力を受けた女性たちが駆け込む場所がないことに気づいたんです」とアンナ。「町外れに部屋が3つある家を見つけ、それをシェルターに改装しました。資金もゼロ、スタッフもゼロ。」ただ、助けたいという思いだけで走り出しました。「どのケースも簡単ではありません―そこには、ひとりの女性の命があり、苦痛、恐怖、孤独がある。私はひとりひとりの顔を忘れません。この活動を行っているのは、それが私を鼓舞するからではなく、目を背けることができないから。何もしないことは、不正義を受け入れることと同じなんです。」

法律ができただけじゃ足りない

パートナーに鼻を折られた女性の事件で裁判所が出したのは“警告”だけ。アンナは、2018年の裁判所でサバイバーが暴行の様子を語った場面を思い出して言います。「暴行した本人はまるで英雄のように法廷を出て行ったわ。」その当時に比べたら「新法で最低でも10日間の拘留が義務づけられたのは前進。でも、まだ十分ではないのよ。」

グルミラ・シュラフメトワさん|アスタナ警察DV対策課大佐

DVの被害者や目撃者と面会し、話を聞き取り、支援機関やサービスとつなぐグルミラ。Photo: UN Women/Roman Gussak 

私たちはもう自分たちの業務を加害者の処罰に限定していません

カザフスタンの首都アスタナで警察官として働くグルミラは、今、アスタナ警察本部DV対策課を率いる大佐です。「サバイバーが安全で支援されていると感じることが重要。私たちは暴力に対するゼロ・トレランス(絶対許さない)の文化を築こうとしています。」グルミラは続けます。「この新法(上述の女性の権利強化と子どもの安全保障に関する法律)によって警察の活動はとても積極的になりました。私たちはもう自分たちの業務を加害者の処罰に限定していません。」今では、サバイバーの支援と証人の保護も重要な業務と理解されています。DV課の警察官の数は6倍に増え、そのほとんどが女性。警察への通報件数も増加。地域の女性たちとの個人的なつながりから得られる情報も、この仕事に対するグルミラの決意を固くさせています。

立法上は進展したけれど、カザフスタンにはDVとの闘いを妨げる制度上の壁が相変わらず存在している、とグルミラも指摘します。社会的圧力、社会の諸問題、経済的依存がこの国の変化を阻む大きな壁です。

DVの再犯率が27%も減少

今年7月、カザフスタン大統領は、ストーカーと強制婚に対する刑事責任を定める新たな法律に署名しました。そしてもう一つ、グルミラは明るい兆候を挙げました。首都アスタナでは、2025年第1四半期にDVの再犯率が27%も減少したのです。「法律は私たちに手段を与えてくれます。でも実施があってこそです。」

アスタナ警察署のデータ(2025年1月~5月):
3,000件以上の保護命令を発令、120人を超える子連れの女性を避難、3,000件以上の加害者に対する予防的介入

 


■ UN WomenがカザフスタンのDV改革に果たした役割

UN Womenは国家立法に関する国連提言をまとめ、教育キャンペーンを実施し、地域のワークショップで専門知識を共有し、サバイバーを支えるシステム構築を行ってきました。また、カザフスタン政府やEUの支援を得て以下の立ち上げに協力しました。

  • カザフスタンのドラマシリーズ:「あなたは一人ではない」
  • ドキュメンタリー:「ゴルゴン」カザフスタンの性暴力を掘り下げた作品
  • 中央アジアの性別に基づく暴力撲滅連合:地域協力を強化するプラットフォーム
  • 中央アジア・アフガニスタンの性暴力撲滅のためのバーチャルツール
  • #HearHerStoryイニシアティブ: サバイバーの声を広め、DVの兆候について教育する

 

■ カザフスタンにおけるDVのデータ

  • 16.5%:親密なパートナーから身体的および/または性暴力を受けた経験がある18歳から75歳の女性の割合
  • 1日300件:警察が受理したDV通報の平均件数(2023年)
  • 毎年80人:パートナーによって殺害される女性の平均人数

 

「恥だから黙るべき」そんな空気が根強くあったカザフスタンで、声を上げ始めた人がいます。
その声が、共感と連帯の輪を広げ、法律を変え、支援の輪を広げています。ジェンダーに基づく暴力の撤廃は、UN Womenのミッションの核心です。 UN Womenは、これからもカザフスタンの女性たちとともに、「沈黙を破る力」を育て続けます。

 

(出典)

https://www.unwomen.org/en/news-stories/feature-story/2025/07/ending-domestic-violence-in-kazakhstan-stories-from-survivors-and-allies

https://www.unwomen.org/en/news-stories/interview/2024/11/one-too-many-how-a-femicide-case-sparked-activism-and-change-in-kazakhstan