交差するフェミニズムとは:その意味と、なぜ今それが重要なのか
2025年6月12日付

写真提供:イスマエル・ヒメネス(UN Women)
世界で最も貧しい地域に最も大きな打撃を与える気候変動、人種差別や不当な差別の急増、ネット上でのミソジニー(女性蔑視)や反人権的な言説の蔓延。平等は、依然として多くの人々にとって手の届かない所にあるのは明らかです。世界はあまりにも威圧的で、至るところに不正義が折り重なっているように見えます。私たちはこの状況をどう捉え、どのように立ち向かえばいいのでしょうか。
「交差するフェミニズム」という考え方が1つの入口となるでしょう。この視点に立てば、人種差別、性差別、障がい者差別、階級差別など、さまざまな種類の不平等が単に隣り合って存在するだけでなく、しばしば、互いにぶつかり合い、より複雑になることが多いことを理解することができます。
「交差するフェミニズム」とは?
これは、1989年に法学者のキンバリー・クレンショー氏が生み出した言葉です。クレンショーさんは次のように説明しています。「交差性(インターセクショナリティ)とは、さまざまな形態の不平等がどのように相互に作用して互いを悪化させていくかを見るためのプリズムです」。
「すべての不平等が平等に同じように作られているわけではありません。私たちは人種による不平等を、ジェンダー、階級、性的指向、移民の状態に基づく不平等とは別のものとして捉えることが多く、これらすべての影響を受けている人がいること、またその経験は各部分の単なる総和ではないことを見過ごしがちです」。
わかりやすく言うと、すべての不平等が同じように経験されるわけではないということです。黒人女性、10代のトランスジェンダー、障がいを持つ移民などは、そのアイデンティティの要素のいずれか1つではなく、すべてを合わせて形作られた差別に直面する可能性があります。
「交差するフェミニズム」はこうした現実を中心に据え、複数の形態の抑圧に直面している人々の声に耳を傾け、全体像を反映した解決策の構築を求めています。
「交差する不平等」とはどのようなものか?
ー黒人フェミニストの声ー
ブラジルの著名な黒人フェミニスト活動家、ヴァルデシール・ナシメントさんは次のように述べています。
「黒人女性の権利を前進させるための対話では、黒人女性を中心に据えなければなりません」。
ナシメントさんは40年以上にわたり、フェミニスト運動だけでなく、ブラジルの黒人運動や進歩主義運動の分野でも正義のために闘ってきました。

「ブラジルの黒人女性は決して闘うことをやめませんでした。白人フェミニストであれ黒人男性であれ、黒人女性ではない人に黒人フェミニストの代弁をしてもらいたくはありません。若い黒人女性がリーダーシップを発揮するときです。ブラジルでは、私たちは問題ではなく解決策なのです」—ヴァルデシール・ナシメント
先住民の少女たちと失われた機会
「交差するフェミニズム」とは、不正義が過去と現在の両方にどのように織り込まれているかを認識することです。何世紀にもわたる暴力、人種差別や不当な差別によって根深い不平等が生み出され、それが今日でも人々の生活に影響を与え、誰が教育、安全、ディーセント・ワーク(やりがいのある仕事)、医療、政治権力にアクセスできるのかを決定しています。
グアテマラの先住民権利擁護者であるソニア・マリベル・ソンタイ・ヘレラさんは、このことを身をもって体験しました。ヘレラさんは子どもの頃、先住民の少女としては稀なことですが、村を離れ、都市部で教育を受けました。ただ、学校で勉強するためには、母国語であるキチェ語を捨て、スペイン語を学ばなければなりませんでした。
その後の就職活動の際、ヘレラさんのような女性には、家の中での仕事しかないと言われたそうです。

「私たち先住民の女性は家事労働者とみなされ、それしかできないと思われているのです」—ソニア・マリベル・ソンタイ・エレーラ
気候不正義の最前線にあるファヴェーラ
アンヌ・エロイーズ・バルボサさんは、ブラジル出身の青年活動家です。気候正義のリーダーでもあるバルボサさんは、「折り重なる不平等」のことをよく知っています。
「私はファヴェーラと呼ばれる社会的に疎外された貧困地区に住んでいました。ファヴェーラは、大雨が降ると真っ先に土砂崩れや洪水の被害を受ける場所です」。
都市から離れたファヴェーラで暮らす人々は、仕事に行くのにバスで3時間、家に戻るときもバスで3時間かけて通勤しなければなりません。これは尊厳を欠くものですし、不公平です」。
女性に対する暴力、環境的不正義、不当な差別といった課題は、一見、無関係に見えるかもしれません。ですが、「交差するフェミニズム」は、それらがどのように相互に関連しているのかを示しています。そして、このような抑圧の影響を最も受けている女性に焦点を当て、「誰一人取り残さない」運動を構築することで、あらゆる形態の抑圧にまとめて対抗するための枠組みを私たちに与えてくれます。

「今日の緊急事態、つまり、気候変動、デジタル権利、人工知能が女性と少女を脅かしています。この交差性を考えると、私たちはまだ、黒人女性の権利、トランスジェンダー女性の権利のために闘う必要があることに気づくでしょう」—アンヌ・エロイーズ・バルボサ
「交差するフェミニズム」がこれまで以上に重要な理由
国連の最新の「世界社会情勢報告」によれば、権力を握っている人と社会の周縁に追いやられた人の間の格差は急速に広がっています。2025年には、気候ショック、テクノロジーによる差別、経済的ストレス、後退的な政治などが重なり合い、社会で最も疎外され弱い立場にある人々が、最も大きな打撃を受けるという最悪の状況になっています。
黒人女性や先住民女性、トランスジェンダーやクィアの若者、障がいを持つ女性、農村で暮らす少女たちは、不平等が最も顕著に現れる交差点で暮らし、今日の危機の重荷をすべて背負わされています。
「日常生活の中で見えない存在であるということは、危機が発生したときも、そのニーズが考慮されず、ましてそれに対処してもらえることなどありません」とタイの人権活動家マッチャ・ポーンインさんは言います。
これが、2025年に「交差するフェミニズム」が重要である理由です。それは、抑圧のシステムがどのように互いを強化し合うのか、なぜ同じように相互に関連した解決策が必要なのかを理解するのに役立ちます。
クレンショーさんは次のように言っています。「不平等を『彼らの』や、『不運な人たちの』問題として捉えているとしたら、それこそが問題です」。
「交差するフェミニズム」は単なる1つのレンズ(プリズム)ではありません。多くの人にとっての命綱です。私たちに行動を促し、危機と不平等の影響を最も受ける人々を中心に据えた解決策を模索するよう求めています。「交差するフェミニズム」は、私たちがより深く洞察し、すべての女性と少女に正義をもたらす運動を構築するよう促します。
(翻訳者:松本香代子)
※ 翻訳者の方々が、ボランティアでUN Womenの記事を翻訳してくださっています。
長年のご協力に感謝申し上げます。