女性・平和・安全保障アジェンダとは
ジェンダー平等が平和に不可欠と世界が宣言してから25年、平和構築者への資金支援は減り、紛争は増加
2025年10月20日付

「戦争をとめて」、「戦争を終わらせて」、「残虐行為をやめて」
これらは世界中の女性と少女のメッセージであり、UN Womenがすべての活動に注ぎ込む、紛れもない平和への希求です。
女性が交渉のテーブルにつくと、和平実現の可能性が高まるだけでなく、より包括的で、より永続的な和平になります。各国の指導者が、戦争が女性や少女に及ぼす恐ろしい影響を認め、和平プロセスに女性が平等に参加する権利を明記した、女性・平和・安全保障アジェンダに関する決議が採択されてから25年になりますが、各国政府はその義務を果たせていません。
以下の解説を読んで、ジェンダー平等と平和がいかに密接に関わっているのか、また、各国がジェンダー平等と平和に十分な投資を行わなければ、どのような危機が起こるのかを理解してください。
世界は平和の構築よりもはるかに多くの費用を戦争に投入
● 2.7兆米ドル:2024年に世界全体が支出した軍事費。2023年比9.5%増で過去最高
● 紛争影響下の国々に提供された資金と技術援助のうち、女性団体に割り当てられたのは0.5%以下(0.4%)
● 4,200億米ドル:発展途上国のジェンダー平等を阻止する年間の資金不足額
女性・平和・安全保障アジェンダとは?
2000年10月31日、国連安全保障理事会(UNSC)は、国連安保理決議 第1325号を全会一致で採択しました。長年声を上げ続けてようやく発効にこぎつけた第1325号は、女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダとして知られています。
簡潔に言うと、世界の指導者たちは、戦争当事国や昔から権力を保持する国(いずれも今なお男性が支配的)であることを超えて、紛争と平和を新たな視点で捉えると約束しました。国連安保理決議第1325号は
- 紛争によって女性と少女が特有で悲惨な被害を受けること、また、それを防止しなければならないことを認めています。
- 和平プロセスへの女性の有意義な参画が、紛争の防止、終結、その後の復興に欠かせないことを明記しています。
結局のところ、人口の半分の人々のニーズや考えを考慮しないで真の平和に近づくことができるでしょうか。現在、WPSに関連する国連安保理決議は10件あり、すべて国連の全加盟国に対して拘束力を有しています。

女性・平和・安全保障アジェンダの4つの柱
次の4つの柱は、ジェンダー平等と平和を共通の目標、そして責任としています。
- 防止:何よりもまず、紛争は可能な限り回避もしくは終結させなければなりません。ジェンダー平等が実現している場合、紛争が起こる可能性は低いです。紛争下にある場合、女性や少女に対するあらゆる形の暴力を当事者が防がなければなりません。
- 保護:女性と少女の権利と安全は守られなければなりません。女性や少女が、特に性暴力によってどのように影響を受けるのかを十分に考慮する必要があります。
- 参画:地方議会から国際舞台まで、平和と安全に関するすべての意思決定に女性が参画しなければなりません。平等かつ有意義な参画をすることによって、和平と安全のプロセスはより包括的になり、ひいては、より一層正当で持続可能なプロセスになります。
- 救援と復興:紛争や危機からの復興において、女性や少女には特有のニーズがあります。多くの場合、子どもや高齢者のケアは、主に女性や少女が担っています。この点において、女性が主導する団体は重要な役割を果たしており、紛争中も紛争後も、食料、水、衛生用品への安全なアクセスを確保しています。

なぜWPSは重要なのか:2000年以降の進展
WPSの25年を振り返れば、答えは明らかです。女性が主導すると、結果として平和が訪れます。
- 女性や少女がエンパワーされているところでは、永続的な平和の達成が可能。
コロンビアでは、内戦の終結に貢献した女性の和平交渉担当者らが、現在は移行期正義を定義する作業を行っています。 - 女性が主導する団体は、最も困難な紛争状態にあっても女性や少女を支援。アフガニスタン、ガザ、スーダンをはじめとする世界各地の女性たちは諦めていません。
- より多くの女性が最前線に。ウクライナでは、女性が自らのコミュニティ、そしてお互いを守っています。
- ジェンダー平等とジェンダー割当制度が平和と安全保障分野における女性の成功を後押し。 治安要員として制服に身を包む女性が増え、そうした女性たちが地域社会とつながりを持ち、新たな方法で平和を維持しています。一方で、軍、警察、平和維持の文化は有害なジェンダー・ステレオタイプを徐々に減らし、ケアを行う人を支援しています。
- 女性や少女に対する犯罪はもはや戦争の代償として受け入れられない。 女性に対するより多くの戦争犯罪が訴追されるようになっている一方で、。正義への挑戦は依然として続いています。
- 世界中の女性と少女が平和と軍縮を要求。
マレーシアでは、若い女性たちが核兵器反対運動を行っています。
社会に平和が広がれば、選挙で投票する女性の増加、 児童婚を強いられる少女の減少、コミュニティ間の対話を主導する女性の増加など、平和が目に見え、実感できるようになります。

女性・平和・安全保障アジェンダを実行するための課題
残念ながら、進展と約束があっても、実際には女性は和平プロセスから積極的に排除されています。
2025年国連事務総長報告書は、慢性的な投資不足と不十分な実施という悲観的な展望を述べています。人が起こした紛争が広がるにつれて、性暴力、心的外傷、標的型攻撃の発生率が高くなっています。その一方で、4カ国に1カ国が女性の権利への反発を報告しています。
世界の目標に対する進展を台無しにする紛争
● 2024年に行われた和平交渉のうち、女性の交渉者が参加したのは10回中1回
● 紛争で殺害された女性と少女は4倍に**
● 女性と少女に対するレイプなど、紛争に関連した性暴力は87%増加**
** 2020年から2022年と2022年から2024年を比較しての増加
資金削減
はっきり言いましょう。WPSアジェンダには、戦時、平時を問わず、十分かつ信頼できる資金が必要です。しかしながら、軍事費が増大する一方で、紛争防止や平和構築への関心が薄らいでいる支援国もあります。資金の大幅な削減によって最前線で活動する団体が活動を停止し、国連の犯罪監視能力、裁判所の設置や草の根平和構築者を支援する力が低下しています。国連平和維持活動が撤退すれば、女性と少女は重要な保護層がないままで置き去りにされることになります。
データの欠如
ジェンダーデータの不足は、紛争下の女性と少女を見えない存在にしてしまいます。性暴力に関する統計がないと起訴件数が減り、サバイバーのためのリソースも減ります。追跡が不十分だと、女性の代表を確保するのがより難しくなります。また、予算が削減されると、強く求められているジェンダーデータの収集や、データの活用法を地域社会に教える活動が妨げられます。
暴力の増加
UN Womenが保有するデータは、女性と少女に対する暴力が驚くほど増えていることを示しています。これには、民間人に対する性暴力とレイプはもちろん、当局者や活動家を対象にした身体的虐待やオンライン虐待も含まれます。紛争は拡大を続けており、女性や少女、そしてすべての民間人が、住まいを追われる、財産を奪われる、攻撃を受ける、殺害されるといった致命的な事態が生じています。
紛争下の暴力は、人知れず深刻化することもあります。不安定な環境にいる女性は、安定した地域の女性に比べて、極度の貧困状態に陥る可能性が約8倍高くなります。2023年には、世界で妊娠中もしくは出産時に死亡した10人に6人の女性が、危機に瀕している国で亡くなっています。その死因の多くが予防可能なものでした。

UN WomenとWPSに関するUN Womenの任務
ジェンダー平等は可能かどうかではなく、平和の前提条件です。UN Womenはすべての女性と少女のジェンダー平等推進のために設立され、その中心にWPSが据えられています。
さまざまな取り組みがある中で、UN Womenは以下の活動を支援しています。
- 危機的状況にあり平和のために戦う女性や少女の声を、安全保障委員会から女性や少女が所属するコミュニティにいたるまで広く届ける活動
- 戦争中、女性や少女に対して行われた残虐行為の調査と記録
- 紛争後の平和および社会的結束の構築を目指す女性主導の活動への投資
- 政策改革を支援し、より多くの女性を安全保障と司法分野、さらにすべての意思決定の場に登用することを目指した各国政府との連携
- 若い活動家など、女性の草の根団体への資金提供
- データの収集と共有を行い、女性、平和、安全保障に関する世界の知識を拡大

国連安保理決議第1325号採択25周年:女性・平和・安全保障の今後は?
行動を起こさなければ、平和の実現はますます難しくなるでしょう。幸いなことに、前に進む道は25年前に敷かれています。
現在、115カ国以上の国がWPSアジェンダを実行するための段階を記した国家行動計画の概略を示しています。しかしながら、こうした計画に十分な資金を投入している国はごくわずかです。
今年は、ジェンダー平等達成に向けた世界的な青写真である北京宣言採択30周年でもあります。北京+30行動アジェンダでは、最前線で活動する女性団体だけでなく、このような国家計画に十分な資金を提供するよう呼びかけています。
大都市から人里離れた村まで、和平プロセスに参加したり救済を受けたりする女性たちが増えれば、その進展を実感することができるでしょう。また、各国がWPSをただの政策ではなく世代を超えて実現する発展中の社会運動として支援すれば、その進展を目にすることができるでしょう。
女性が主導すれば、平和が後に続きます。けれども、女性が声を上げたとして、世界の指導者たちは耳を傾けてくれるでしょうか。
本記事に掲載した写真は、フォトビルの「彼女のレンズを通して」の一部です。2025年の展示会は、紛争地域に住む女性写真家と協力し、UN Women、国連平和活動局および政治・平和構築局、さらにエルシー・イニシアチブ基金の支援を受けて始まりました。
(翻訳者:本多千代美)
※ 翻訳者の方々が、ボランティアでUN Womenの記事を翻訳してくださっています。
長年のご協力に感謝申し上げます。
