【15のストーリーNo.8】変わり始めたヨルダン、動き出す女性たち

2025年7月、UN Women(国連女性機関)は設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。
変わり始めたヨルダン、動き出す女性たち
〜家庭から議会へ:『私の居場所』を切り拓く女性たちの新時代〜
第8話は、女性の政治参加で歴史的な成果を出したヨルダンから、新しい世代の女性たちが力強く歩む物語をお届けします。
この5年間、ヨルダンは女性の政治参加を後押しするために大幅な改革を進めてきました。女性が有権者として、また選挙スタッフや候補者として活躍できるようにする取り組みです。その成果は2024年の選挙に現れました。女性候補者への票はほぼ倍増し、女性の議席獲得率が前回2020年の13.8%から19.5%へと大きく伸びました。
アラブの国ヨルダンで起きているこの変化を理解するために、二人の女性に話を聞きました。
■ 『ここが私の居場所!』、女性たちにそう言ってほしいんです
◇ユスラ・アル=カリーシャさん | 政治研修を行う財団の事務局長

著名な社会活動家で、ワヤコム財団(研修の実施と政治発展を推進する団体)の創設者であり事務局長を務めるユスラは、「女性たちに、国会へ、つまり教育や政治を率いる立場へと自分たちの居場所を切り拓いて進んでいってほしい。『家庭の外にも自分の居場所がある!』、私たちは女性たちにそう言ってほしいんです」と語り始めました。
「ヨルダンでは政治に参加する女性たちが増えてきています。それは、法律が、女性がリードし参加できる場を作り始めているからなんですよ。」
どんな法律? ヨルダンの新法
選挙法(2022年):下院における女性枠を18議席に引き上げ、各選挙区に1議席を割り当てている。また、地方選挙で政党名簿の上位に女性と若者を配置することを求めている。
政党法(2022年):政党の設立メンバーの少なくとも20%を女性が占めることを定めている。
地方行政法第22号(2021年):地方および地域評議会における女性議員比率を以前の10%から25%まで引き上げている。
■「法律や制度の問題以前に、ジェンダーに対する固定観念という隠れた障壁がある」
◇ジャミーラ・カッサブさん|ヨルダン独立選挙委員会オーガナイザー

かつては教室で子どもたちの成長を支える教師だったジャミーラは、今は教育委員会進路指導部長として働きながら、2013年から地方選挙のファシリテーターや研修活動の支援など、いろいろな形でヨルダン独立選挙委員会(IEC)の業務に関わっています。
「多くの人が、“政治は女性のためのものではない”と考えているのよ。女性に対する文化的な期待、少ない研修機会、ロールモデルの不在が、女性の政治参加に障害を生み出しているんです。そして、それは法律的・制度的な壁よりも前に立ちはだかる障壁なんです」と、ジャミーラはジェンダーに対する固定観念の問題を指摘しました。
「女性の政治参加を阻む壁は実にさまざま」と続けます。政党や有権者からの支持が得にくいことや選挙費用の工面など社会的・文化的・経済的なものから、選挙の経験不足や今の選挙活動には欠かせないデジタル・スキルの不足、人前で話す自信の欠如など実務的なものまで、女性には多くの障壁が立ちはだかります。
ジャミーラが10年以上前に初めて独立選挙委員会の仕事に関わった時、彼女自身も自分に自信がなかったと言います。それまでは、教師のジャミーラにとって政治は遠い世界のことで、全く考えたこともなかったからです。
そんなジャミーラに転機が訪れたのは、選挙運営を行う女性リーダーの育成を目的としたUN Womenの研修プログラムに参加した時でした。「以前の私は政治に関わることを恐れ、誤解もしていたの。それで多くの好機を逃してしまっていたわ。でも、研修で、政治に関わるためのスキル、知識、自信を身につけ、今では政治への参加が未来への鍵だと考えているんですよ。」
■ 次世代の女性たちへのメッセージ
女性の政治参加に変化をもたらす要因として法律の整備をあげたユスラ、一方、法律や制度以前に、社会に存在する固定観念の問題を指摘したジャミーラ…この二人が共通して示した考えは、選挙に女性候補者を増やすだけではヨルダン人女性がエンパワーされたとは言えないというものでした。“一般の女性たちが、自分たちこそがヨルダンの未来を形作っていく中心的な存在なのだと深く理解する必要がある”と、二人の意見は一致しています。
家庭と社会貢献を両立させているジャミーラは、6人の我が子や学校の生徒たちのロールモデルになれていることを誇りに思っています。「地域社会で、私は社会の役に立つ人として尊敬してもらっています。他の女性たちにその時が来たら、私の姿が女性たちの背中を押してくれるのではないかと期待しているの。」
ワヤコム財団で研修事業を行うユスラも、「責任感が強く、知識豊富で有能な女性候補者たち」に投票したいと考える人を増やすのが目標だといいます。そして、適切な機会が訪れれば「私は選挙に出馬することもためらわないわ!」とつけ加えました。
UN Womenは、ユスラのワヤコム財団のような市民団体や指導者、選挙管理委員会、政府などと緊密に連携して、全国規模の研修プログラム『私たちの共同責任(Our Shared Responsibility)』を実施するなど、女性の政治参加促進に取り組んでいます。同時に、公正で透明な選挙実施のため、もっと多くの女性を選挙管理委員会へ登用するよう促しています。最近、史上初めて女性が全国委員会のトップに選出され、3人の女性が地方委員会のトップに任命されました。
こうした変化の中で、ユスラもジャミーラも明るい未来を描いています。
ヨルダンのすべての女性たちに向けたユスラからのメッセージです。
「固定観念に縛られないで!外に出て、自分の存在を示し、本来あなたが持つべき意思決定の場を勝ち取りましょう。」
日本の私たちを励ましてくれているようにも聞こえませんか?
