【15のストーリーNo.11】「決して自分と同じ目には遭わせない」

昨年(2025年)7月に、UN Womenは設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。
「決して自分と同じ目には遭わせない」
〜ケニアのFGM(女性器切除)被害者の話〜
◇キャサリン・ムーティアンさん|ケニア・FGM被害者支援団体代表

「経験を話せるようになるまで23年もかかりました。自分だけが苦しんでいるわけではないと気付いた時にやっと癒しが始まったんです。」
被害者の傷は身体だけではない
皆さんは「FGM(女性器切除)」という言葉を聞いたことがありますか?初めて聞くとギョッとしますよね。世界のどこかで12分に1人の少女がFGMで亡くなっています。この慣習には様々な背景がありますが、女性の性器を幼いうちに切除することで女性の「純潔」を確保するといった目的があります。身体的危害を加えて “女性の身体と人生をコントロールするためのもの”と言えます。現在では人権侵害として多くの国の法律で禁止されています。
第11話は、この恐ろしい慣習を経験した女性たちを支えるNGOの代表、キャサリンのお話です。
「加害者が裁判にかけられるのは重要。でも、切除された少女はどうなるのか。彼女の癒し、教育、未来を支えるのは誰なのか。」
ケニアの活動家・キャサリンは、法律だけでは対処できない被害者の支援を、被害者同士のサポート、カウンセリングなどを通じて行っています。それは、FGMの影響は切除行為そのものよりもずっと長く、身体的に、心理的に、社会的に続くものだということを彼女自身が実体験として知っているからです。
キャサリンは、ケニアのマサイ族の教育水準の高い家庭に生まれました。父親は医者でした。そんな環境で育ったキャサリンですら、12歳になったある日突然、FGMを受けさせられました。
「午前3時に起こされたの。部屋には男たちが待ち構えていたわ。冷たい水でシャワーを浴びてくるように言われ、気づいた時には手術用の刃物が取り出されていた…そう、私は性器を切られたの、何の説明もないままに。」
その体験は、決して一瞬の出来事では終わりませんでした。
「学校で女の子たちは誇らしげにFGMを受けたことを話していたわ。それが女性として認められた証だったから。でも私は黙っていた。恐怖と恥の中で、FGMを受けたことを隠して生きてきました。」
大学に進んでも、その影響は続きました。
「男の子たちが最初に聞いてくるのは切除されているかということでした。今度は、FGMを受けた女性は感じないとか “ノーマル” ではないといった迷信に対峙しなければならなかったんです。私は再び沈黙しました。」
のちには、出産もトラウマになりました。FGMを受けた時の傷のために、帝王切開で産むしかなかったのです。そんなキャサリンは、今でも血やメスを見ると体が反応すると言います。FGMの影響は人生の様々なステージで何度も姿を現すのです。
自分に力を与えたのは、妹を守ろうという決意でした
現在、キャサリンはFGMの被害者たちで設立したNGOを率いています。
「私がまず最初に守ったのは妹です。そして、自分が経験したことを、村のほかの女の子には絶対に味わわせないと誓ったんです。」こう語るキャサリンは続けて言います。「私たちの郡には政府の心理士が3人いるけど、FGMの被害者は500人以上もいるの。正義が機能するには法律だけでは不十分。カウンセリングや保護、回復のための持続的な資金がなければ、被害者はその被害を一人で背負うことになるんです。」
また、キャサリンは、FGMの根絶には女性の努力だけでは足りないと言います。
「男性がFGMの実態を知り、それが取り返しのつかないことだと理解すると、彼らの態度は変わります。中にはFGM撤廃の擁護者となる人が現れ、声を上げて迷信を否定するようになるのです。」
FGMはジェンダーの不平等が生む構造的な問題です。FGMを終わらせるためには、法律の整備に加えて、社会規範そのものが変わらなければなりません。被害者であるキャサリンの勇気ある行動は、自分のトラウマを癒し、妹たちを守り、同じ体験をした女性たちを団結させました。もう男の子からの質問に沈黙する女学生ではありません。そして今では男性たちと手を携えてFGMと闘う活動を広げています。
【UN Women がFGM撤廃に向けてやっていること】
・各国政府と協力し、FGMを禁止する法律の整備と強化
・被害者や危険に晒されている少女を助ける、キャサリンのNGOのような女性団体の支援
・安全な場所、保護、心理社会的支援の提供
・勝ち取った制度が後戻りしないように、国内、地域、国際レベルで継続的な働きかけ
