UN Womenとともに最前線でCOVID-19に向き合うロヒンギャの女性

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2020年7月6日

UN Womenアジア太平洋地域ウェブサイトより2020/6/3

ロヒンギャの女性と少女が製作した色とりどりのマスク。写真:UN Women/ナディラ・イスラム

世界中でロックダウンが行われて社会や経済が深刻な打撃を受ける中、女性はケアと支援活動の中心になっています。家では家族の世話をし、外では主に保健やサービスの分野において最前線で働いています。

世界最大の難民キャンプがあるバングラデシュのコックスバザールでは、仕事がなく家族を養うだけの収入を得られないことで人々のストレスが高まり、家庭内やキャンプ内でジェンダーに基づく暴力が増えています。しかしこのような苦境の中でも、ロヒンギャの女性は家族やコミュニティを守ろうと最前線で働いています。中でも特筆すべきは、市場での個人用保護具(PPE)の不足を補うためにマスクを製作する活動です。

マスクの製作活動は、キャンプ内にあるUN Womenの5つの多目的女性センターでパートナー組織が運営しています。女性が一人で家計を支えている46家庭から163名が携わり、50,000枚以上のマスクを製作しています。

25歳のシェタラさんはUN Womenのパートナー組織の訓練を受けました。2017年にミャンマーのラカイン州で起きた武力衝突により夫を亡くし、3児とともにバングラデシュに逃れてきました。ラカイン州にいた頃、彼女の家族には土地と家畜があり、自給自足の生活をしていました。

しかし、難民キャンプでは他の859,000人以上の難民と同様に、生きるためには人道支援に頼るしかありませんでした。マスクの製作に携わるようになって、彼女は今では1週間に2,720タカ(約32米ドル)の収入を得られるようになりました。彼女が自力で収入を得たのはこれが初めてであり、家族にとっても最大の収入となりました。シェタラさんは「イード(イスラム教の祝祭)を祝うお金ができてうれしいです。子どもたちの教育や家族の生活のためにもっとお金を稼ぎたいです」と語りました。

ヌール・アンキッチさんもマスク製作に携わっています。彼女はまだ10代ですが、すでに10人家族を養う大黒柱です。1週間に約40米ドルの収入を得て、病気の父親のために役立てています。しかし、自力で収入を得る方法を見つけたにもかかわらず、ヌールさんが自由に行ける場所はUN Womenのセンターしかありません。ロヒンギャのコミュニティには保守的なジェンダー規範が深く根付いていて、行動や移動に対する制限や監視があります。UN Womenは女性に仕事を見つけたり、教育を受けたり、リーダーシップを培ったりする機会を提供するだけでなく、ジェンダー規範を変えていくためのプログラムにコミュニティの男性やリーダーの参加を呼びかけて、このような保守的な規範に対処しようとしています。ヌールさんは、「もっとお金を稼げるように勉強がしたいし、手芸も上手になりたいです」と言います。

マスク製作の収入で家族を支えているロヒンギャの少女。写真: UN Women/ナディラ・イスラム
マスクを製作する少女。後ろの壁にかかっているのは仕立て技術訓練用の見本。写真:UN Women/ナディラ・イスラム
マスク製作に精を出すロヒンギャの女性。写真: UN Women/ナディラ・イスラム

キャンプ内でのマスク製作プロジェクトは、すぐに他の人道支援活動家からも注目されるようになりました。「マスク製作の運営について問い合わせの電話が殺到した時期がありました」とUN Womenジェンダープログラム担当者であるナディラ・イスラムさんは言います。これまでに、多数のNGOからマスク製作現場の視察に訪れたいとの申し出を受けています。

UN Womenとパートナー組織のBRAC(バングラデシュ地方推進委員会)とAAB(アクションエイドバングラデシュ)は、以前に仕立て技術の訓練を受けた女性を集めて、キャンプ内でマスク製作を始めました。ロヒンギャ女性エンパワーメント・アドボカシーネットワークや正義と平和のためのロヒンギャ女性ネットワークなどの自主的につくられたグループも、自宅でのマスク製作をはじめ、新型コロナウイルス感染拡大に対応する活動に参加し、これまでに培ってきたリーダーシップやエンパワーメントを発揮しています。

こうした女性のネットワークは、UN Womenから技術や資金面でのサポートを受けて1年前に設立されたロヒンギャ女性リーダー包括ネットワークの一部です。UN Womenはマスク製作の輪をさらに広げるために、こうした草の根レベルの女性のネットワークにミシンや材料を提供し、訓練を行いました。

キャンプ内では、感染防止のためロックダウン中は収入源となる他の活動が停止を余儀なくされている一方、マスク製作プロジェクトは続けられており、女性たちは緊急事態に対応してコミュニティを支援する活動に貢献し、家族の最低限の生活を維持するだけの収入を得ることができます。多目的センターに来て他のロヒンギャの女性と一緒にマスクを製作する時間は、自宅を離れて家庭でのストレスや不安から解放される大事な息抜きの場にもなっていると皆が口をそろえます。

ロックダウンのさなかに命を守るマスク製作を迅速に運営することは、簡単なことではありませんでした。材料の調達、働き手の女性を集めること、梱包、マスクの消毒、認可された見本通りに製品を仕上げること、そしてそのすべてを効率よく連携させることなど、終始きめ細かく取り組まなければなりませんでした。UN Women、AAB、BRACそして要であるロヒンギャの女性とそのネットワークがチームになって強く結束し、この流れを作り上げました。

多目的女性センターの前に立つUN Womenスタッフのナディラ・イスラムさん。ここでは保護、教育、暮らしなど多方面にわたるサービスが行われています。写真:UN Women/パップ・ミア

このプロジェクトには政府との緊密な連携も必要でした。マスク製作を始めるにあたり、ナディラさんはロックダウンのさなかに政府の代表者との交渉に出向きました。難民救援帰還委員会(RRRC)は事の重大さを理解し、UN Womenがマスク製作を始めることをすぐに許可してくれました。「制約はあるものの、バングラデシュ政府はロヒンギャのコミュニティを支えることを確約し、マスク製作に携わることでロヒンギャの女性がこの危機に最前線で貢献することを例外的に認めてくれました」とコックスバザール支部長のフローラ・マキューラ氏は述べました。

UN Womenはキャンプ内だけでなく、コックスバザールの他のコミュニティに住むバングラデシュ人女性にも呼びかけ、小規模ながらマスク製作活動を進めています。市場のマスク不足を補うために、地域の女性の権利のための組織であるジャゴ女性開発機構(JNUS)や法律仲裁センター(ASK)と連携して取り組んでいます。

UN Womenは、コックスバザールで新型コロナウイルスの感染が拡大した場合に必要になると思われるベッドシーツ、カーテンなどの見本も準備しています。また、マスクの製作、供給、流通に加えて、75人の地域ボランティアを通じて啓発プログラムを実施し、地域住民、特に女性に対し、感染予防と感染拡大防止のための行動について伝える活動をしています。

多目的女性センターの前に立つロヒンギャの女性ボランティア。ボランティアは、コミュニティレベルでの意識向上やコミュニティの多様な声を集めるのに欠かせない役割を担っています。写真:UN Women/パップ・ミア

コックスバザールの難民キャンプ内やキャンプが立地している地域では、新型コロナウイルスへの適切な対処方法や備えを検討するために定期的に会議を開いています。

難民キャンプにあるUN Womenの多目的女性センターやUN Womenが支援している警察官常駐の女性と子どものヘルプデスクを通じて、UN Womenはジェンダーに基づく暴力(ドメスティックバイオレンス、人身売買、レイプ、ハラスメントなど)の被害者への応急処置、心理社会的カウンセリング、助産師による性と生殖に関する健康管理、ケースマネジメントと専門機関の紹介といった、命を守るための大切なサービスを女性と少女に提供しています。

日本、スウェーデン、カナダ、オーストラリア政府の寄付、そしてシンガポール、日本、アイスランド、アメリカのUN Women国内委員会によるコックスバザールにおけるUN Womenの活動への継続的な支援と柔軟な対応に感謝いたします。皆さまのおかげで衛生に関する啓発、衛生用品の配布、マスクの製作等の活動を迅速に行うことができました。

(翻訳者:早乙女由紀・実務翻訳スクール)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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