演じた役を通して女性に対する暴力がもたらす悪影響を実感 〜 UN Women親善大使、多くの受賞歴を誇る俳優ニコール・キッドマンさん

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2021年2月5日

2020/12/29

ガーディアン掲載記事より

今年私たちは想像もしていなかった暮らしを強いられました。健康や生活に不安を抱える一方で家族や愛する人たちと引き離されたり、夢を中断させられたりしました。

新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、影のパンデミックといわれる女性に対する暴力が蔓延してきています。ヘルプラインへの相談件数は感染拡大初期の数週間で最大で5倍に増えました。またこの問題は感染が拡大する前からすでに街中、地下鉄の中、ホテルの部屋といった場所、あるいはニュース、友達との会話といった場面、そして私の読んだ脚本や演じた役など、あらゆるところで広がっていましたが、さらに差し迫ったものになりました。

パートナーや家族から暴力を受けたり、虐待されたり、意のままに支配されたり、常に見張られたりして家が安全な場所ではないのに、新型コロナウイルス感染症から身を守るために皆と同様に家に閉じこもらなければならない女性や少女の生活がどんなものか想像してみてください。ロックダウンが3か月続くごとに、世界中で新たに1500万人の女性が暴力の被害にあうとみられ、また被害者のための支援サービス、カウンセリング、シェルターなどに深刻な負担がかかるともみられています。

家庭内での虐待とともに、女性と少女に対するあらゆる形の暴力が急増しています。人影のほとんどない街中でのいやがらせから、ネット上のいじめ、そして家計が苦しくなった家庭の少女が学校をやめさせられ、結婚させられるといったことなどもあります。

私は2006年からUN Womenの親善大使として、世界各地で女性に対する暴力がすさまじく広がっていることについて多くのことを知り、その深刻な影響を目にしてきました。

 3人に1人 の女性と少女がその生涯で暴力を経験するということを初めて聞いた時、強い衝撃を受けました。その年にコソボ共和国を訪れ、性的暴力の被害者、戦争未亡人、行方不明の家族を探し続けている女性たちに出会い、その経験談に耳を傾けました。暴力によってどれだけ女性とその子供たちの生活が損なわれたかや、失われた命、破れた夢について、そして困難な状況にどう立ち向かい乗り越えたのかを聞きました。そして女性の強さと復興のためのレジリエンスを目の当たりにしました。

ドラマ「ビッグリトルライズ」で、弁護士であり家庭内虐待の被害者であるセレステ役を演じて、この問題に対する私の姿勢は強まりました。来る日も来る日も実際に虐待を受けている女性の状況に比べれば何でもないはずなのに、この役を演じている時私は強い無力感にさいなまれたり、ひどく屈辱を覚えたりしました。撮影中は平静でいようと努めましたが、家に帰ればどっと疲れが出て、暴力がもたらす影響の大きさを思い知らされました。

しかしそんな時は、これまで出会ってきた被害者や活動家の強さとレジリエンスを思い出すようにしました。そしてそれが、意見や考えを出し合える場を持たない人たちのために私の発信力を活かそうとするきっかけになったのです。

この感染拡大の状況下にあっても、誰もが女性と少女に対する暴力を終わらせるために果たせる役割があり、その力を持っています。被害者の話に耳を傾け、信じることから始まります。誰かが性的被害を受けた経験を話す場合、彼女がその時に酔っていたか、どんな服だったか、性的指向はどうかなどは関係ありません。友達同士で有害な言動を指摘したり、関連する情報をグループチャットで話題にしたりするような小さな行動でさえ、大きな意味を持ちます。

私はフェミニストの母に育てられたので、女性として生まれてきたことが不利になると感じたことは一度もありませんでした。今私自身母として、自尊心を養うこと、固定観念や差別に挑戦すること、若い世代の手本となることがどれほど大事かを分かっています。小さいうちから家庭でジェンダーの役割について話し、男の子とも女の子とも同じように合意、自己の身体の不可侵性、責任について語り合う必要があります。

あなたの声が力になります。虐待について学び、どんなサービスや資源を用いれば被害者を助けられるのかを知っておいてください。友人が暴力を受けていて身の危険を感じているようだと思ったら、手を差し伸べてください。意識向上のためにソーシャルメディアのチャンネルやコミュニティを活用してください。もし余裕があれば、被害者にシェルター、保健サービス、司法へのアクセスといった生きるために不可欠なサービスを提供している世界各地の団体に寄付をしてください。こうした団体は活動資金がとても集まりにくい状況になっています。

女性と少女に対する暴力は感染症の拡大以前からすでに蔓延しています。この問題は、この先感染症より長く続いてもそうでなくても、私たちすべてが背負うべきものであることに変わりはありません。

(翻訳者:早乙女由紀・実務翻訳スクール)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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