真のリーダーシップとは:日々、不平等と闘うネパールのダリット女性リーダー、ラクシュミ・バディさん

記事をシェアする

2021年4月12日

2021/3/10

ネパールのダリット(被差別カースト)の女性リーダー、ラクシュミ・バディさんは、コロナ禍においても平等な権利を求める闘いの最前線にいます南アジアでは、ダリット出身者は旧態依然としたカースト制度の最下層に位置づけられ、何世代にもわたって差別や分離に直面してきました。

ピンクのショールをまとって中央に座るラクシュミ・バディさん。フェミニスト・リーダーシップ研修のグループワークに参加中。写真:ネパール国立ダリット社会福祉機構/シャンカー・ビスウォカルマ

概要

  • ・世界的にみて、少数民族、移民女性、農村地域の女性、障がいのある女性、先住民族の女性たちは、今でも日常的な差別と公的生活からの排除に直面しています。ジェンダー平等と善き統治(ガバナンス)は、公の生活と意思決定に多様な女性と少女が参加しない限り達成できません。
  • ・国会議員に占める女性の割合はわずか24.9パーセントですが、地方議会の女性議員の数は200万人を超え、36%を占めています。
  • ・ジェンダー割当制度(クォータ制)は、適切に設計して効果的に実施すれば、立法府やその他の部門における女性の数を増加させることができます。各国がそれぞれの目標を達成するためには、野心的な目標設定と、政策を遵守しない政党に対する強制執行と罰則が必要です。地方議会に割当制度を導入しているのは77か国ですが、男女同数としているのはそのうちのわずか4分の1です。
  • ・女性議員が少ないとすべての人に影響が及びます。新型コロナウイルス感染症への効果的な対応と回復には、すべての人のニーズを効果的に満たし、よりよい社会の復興を目指す政策や予算に関わる意思決定に女性と少女が参加する必要があります。

女性のリーダーシップに関する詳細なデータについては、国連事務総長の報告書をご参照ください。

ラクシュミ・バディさん(40歳)は、2017年からネパール極西部にあるディバヤル・シルガディ市の地区委員と司法委員を務めています。

10年前のこと。バディさんが祈りを捧げるために寺院を訪れたところ、地元の人々から拒否されました。「ダリットの女性から供物など受け取ると寺院が穢れる」というのです。人々はバディさんに近づき「いうことを聞かなければ殴るぞ」と脅しました。

このような差別はバディさんにとっては日常茶飯事です。

バディさんはダリットの出身で、「不可触民」とみなされていたため、教師や友人、隣人たちは触れると穢れるという恐れから彼女には近寄らないようにしていました。

でも、このような差別は違法であるということを知り、どこに訴えればよいかもわかったので、今回バディさんは声をあげることにしました。

「このお供え物を受け取ってください。受け取ってもらえなければ、カーストに基づく差別として訴えます」と勇気を振り絞って司祭に伝えました。司祭が怒ってこぶしを振り上げて叩くのではないかと覚悟していましたが、司祭は何も言わずに供物を受け取りました。

この出来事の直後、バディさんはフェミニスト・ダリット協会に入り、ダリットの女性が牛を飼育して経済的に自立できるように支援しました。

次のステップとして、バディさんは政界に入ることにしました。

そして2017年6月、区議会議員に選出されました。

2020年には、フィンランド政府が資金提供しているUN Womenのプログラムに参加し、リーダーシップとガバナンスに関する研修を受けました。

コロナ禍でも誰一人取り残さない

2020年の新型コロナウイルス感染症によるロックダウン中、バディさんの自治体には、たくさんの出稼ぎ労働者がインドから戻ってきました。帰国した労働者たちは検疫として14日間、地元の施設で保護(隔離)されました。ところが、新型コロナウイルス感染症の発生は、ダリットに対する差別を悪化させました。保護センターにいた「上位カースト」の人々が、ダリットの帰国者は新型コロナウイルス感染症を拡大させるに違いないと言って敷地内に入れることを拒み、門を閉めてしまったのです。

そのことを知ったバディさんはハンマーを持って施設に行って錠を壊し、「上位カースト」を含むすべての人が、新型コロナウイルス感染症検査で陽性者になる可能性があると説明しました。すべての人に物理的距離を保つように伝え、もしも誰かがダリットの人を差別したら警察に通報すると告げました。

保護センターでは、ジェンダーに基づく暴力を経験した人にも支援の手を延べました。鍵がかかったドアの向こう側で、女性に対する暴力が増加していました。保護センターの中で、ある女性が夫から身体的虐待を受けていると知ったバディさんは、その女性が治療を受けられるようにしました。その後も定期的にフォローして安全を確保し、彼女の権利に関する情報を提供しています。

不平等に対する継続的な取り組みによって、バディさんは地域で一目置かれるようになりました。地区委員である彼女の優先事項は地域の中でも最も疎外されている人々です。新型コロナウイルス感染症が発生する前、バディさんのチームは家を1軒1軒訪問して、住民サービスを受けるのに必要なIDカードを障がいを持つ人が持っているか、高齢者であれば住民票を持っているかを確認しました。様々なサービスを受けるのにこのような本人確認書類が必要だからです。また、自宅近くの地区事務所から州の給付金や年金などの手続きができるようにプロセスの合理化を図りました。さらに、独身の女性が収入を得られるように研修プログラムの実施を支援しました。パンデミック中に、食料や衛生用品などの入った救援パッケージが必要とする人に届くようにしました。

割当制度とメンターシップが平等の鍵

「割当制度がなければ、今の私はいなかったでしょう」とバディさんは語ります。彼女は、地方議会に割当制度が義務付けられていたことと支援研修を受けたおかげで、公的生活における自分の影響力を拡大できたと考えています。

「女性とダリットの状況を真に改善するには、人々の意識を変えなければなりません」

2017年に定められたネパールの地方選挙法では、753ある地方自治体のすべての地区で4議席のうち2議席を女性、さらにその2議席うち1つはダリットの女性とすることが規定されています。また、地方自治体の幹部管理職の1人は女性とすることが義務付けられています。たとえば、自治体の市長と副市長では、どちらか一方が女性でなければなりません。

UN Womenは正義と権利の協会(JuRI)と提携して、ジェンダーに対応した包括的なガバナンスについて、バディさんのような女性を対象に研修を実施しました。参加者はフェミニスト・リーダーシップ、地方行政、ジェンダー法について学びました。バディさんは身につけた知識とスキルを使って、女性や障がい者など弱い立場におかれた人のためにリソースを向けるよう訴えています。

バディさんは、もっと多くのダリット出身の女性が権力のある立場に就くことができる環境作りを目指しています。ダリットの中にも階層があります。バディさんは、ダリットの中でも最も弱い立場にある階層の人には、また別の割当制度と的を絞った介入が必要であると考えています。

ネパールの新憲法(2015年)は、ジェンダーやソーシャルインクルージョンを促進する絶好の機会を提供してくれました[1]。新憲法の割当制度に関する規定により、2017年の連邦選挙後、選挙で選ばれた女性議員の41%が地方自治体の長になりました」とUN Womenのサントッシュ・アチャリヤ プログラムオフィサーは述べました。彼は、支援研修プログラムによって、新しく選出された女性議員が地区の選挙民のために働き、政治のリーダーシップを発揮するために必要なスキルや知識、メンターシップなどを身につけることができると考えています。

これまでに、UN Womenはネパールのスドゥバショチム州で選ばれた95人の女性議員を対象に研修を実施してきました。

バディさんはこれまでの成果について家族にも感謝しています。「夫の励ましのおかげでより高い目標を目指すことができます」と言います。バディさん夫婦は、2人の娘と3人の息子が家事を平等に担うように育ててきました。「女性とダリットの状況を真に改善するには、人々の意識を変えなければなりません」とバディさんは述べました。

(翻訳者:松本香代子・実務翻訳スクール)

注[1] 2015年に制定されたネパール新憲法は、副知事/副議長の下、地方自治体に3人のメンバーからなる司法委員会を設け、憲法に従って個々の争点を解決することを目指しています

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

寄付する