インターセクショナル・フェミニズムとは?なぜ今、重要なのか?

記事をシェアする

2021年6月8日

2020/7/1

Medium.com/@UN_Womenから転載

新型コロナウイルス感染症が世界各地に与えたさまざまな影響から、人種差別をはじめとする差別に対する国際的な抗議活動まで、現在起こっている出来事は、平等達成までにはまだほど遠いことを示しています。今、こうした多くの不正義を解釈し、それと闘おうとすると、圧倒されてしまうかもしれません。では、このような問題にどう対処すればよいのでしょうか。また、なぜ対処すべきなのでしょうか。インターセクショナル・フェミニズムは、私たちがお互いをよく理解し、すべての人にとってより公正な未来に向けて努力することができるレンズを提供します。

不平等を「彼らの」や「不運な人たちの」問題として捉えているとしたら、それこそが問題です。弁護士、公民権活動家、インターセクショナル・フェミニスト
キンバリー・クレンショー

1989年に「インターセクショナル・フェミニズム」という言葉を作ったアメリカの法学部教授であるキンバリー・クレンショーさん。最近行われたタイム誌のインタビューで、インターセクショナル・フェミニズムは「さまざまな形態の不平等がどのように互いに作用し、悪化していくかを見るためのプリズム」であると説明し、「すべての不平等が平等に作られているわけではない」と言います。インターセクショナリティの考え方は、社会的アイデンティティが複数重なり合うことによって、複合的な差別体験が生まれることを示しています。

「人種による不平等を、ジェンダー、社会的階級、セクシュアリティ、移民の状態などに基づく不平等とは別のものとして捉えることが多く、これらすべての影響を受けている人がいること、またその経験は各部分の単なる総和ではないことは見過ごされがちです」とクレンショー教授は言います。

インターセクショナル・フェミニズムは、さまざまな状況における不平等の深さとその関係性を理解するために、重なり合った同時多発的な形態の抑圧を経験している人々の声を中心に据えています。

ヴァルデシール・ナシメントさん 写真:UN Women/ライアン・ブラウン

ブラジルの著名な女性権利活動家であるヴァルデシール・ナシメントさんは、「黒人女性の権利を前進させるための対話においては、黒人女性を中心に据えなければならない」と語ります。40年間、ナシメントさんは平等な権利を求めて闘ってきました。「ブラジルの黒人女性は、決して闘うことをやめませんでした」と言い、黒人女性がフェミニズム運動や黒人運動、その他の進歩的な運動に参加していたと話します。「白人のフェミニストであれ黒人男性であれ、黒人女性ではない人に黒人フェミニストの代弁をしてもらいたくはありません。若い黒人女性がこの闘いに挑むことが必要です。ブラジルでは、私たちは問題ではなく解決策なのです」と言います。

インターセクショナリティのレンズを使うことは、問題を取り巻く歴史的背景を認識することでもあります。長い年月に及ぶ暴力と制度的な差別によって深い不平等が生まれ、最初から不利な立場に置かれている人もいます。貧困、カースト制度、人種差別、性差別などの不平等が互いに交差して、人々の権利や平等な機会を奪います。しかも、その影響は世代を超えて続きます。

ソニア・マリベル・ソンタイ・ヘレラさんはグアテマラの先住民族の女性であり、人権擁護者です。グアテマラでは、先住民族の女性に対する制度的な差別が数十年も続いています。ヘレラさんは、幼い頃からこうした歴史的な不正の影響を感じてきました。

ソニア・マリベル・ソンタイ・ヘレラさん 写真:UN Women/ライアン・ブラウン

ヘレラさんは、学校に通うために10歳のときに都市に引っ越しましたが、ほとんどの先住民の少女にはこうした機会はないそうです。しかし、ヘレラさんは母語であるキチェ語を捨て、スペイン語で学ぶことを強制されました。スペイン語は植民地支配者の言語であり、先住民の女性にとって不当な負担です。学業を終えて職探しを始めたヘレラさんは、すぐさま人種差別や性差別の固定観念に直面します。先住民族の女性には、家の中での仕事しかないと言われたのです。

「先住民族の女性は家事労働者とみなされ、それしかできないと思われているのです」と、自分のアイデンティティに基づく複合的な差別を経験したと話してくれました。

「ジェンダーに基づく暴力やジェンダーの不平等の影響を最も受けているのは、黒人や褐色の女性、先住民族の女性、農村部の女性、少女、障がいを持つ少女、トランスジェンダーやジェンダー非適合の若者など、最も貧しく疎外されている人々です」と話すのは、ペルーのリマ在住のユースリーダーで気候正義を訴える マジャンドラ・ロドリゲス・アチャさん。疎外された地域が自然災害や気候変動の破壊的な影響を最も受けているのは、単なる偶然ではないと強調します。

ジェンダーアイデンティテに基づく差別から環境負荷の格差などの問題は、一見別々の問題のように見えますが、インターセクショナル・フェミニズムの観点で見ると、正義と解放を求めるすべての闘いには関連性があることが明らかになります。平等を求める闘いは、ジェンダーの不公平を反転させるだけでなく、あらゆる形態の抑圧を根絶することでもある、ということを示しています。それは、重なり合った形態の差別を同時に解決するための、包括的で強固な運動を構築する枠組みになります。

今日、世界各地で同時多発的に危機が発生していますが、私たちは、インターセクショナル・フェミニストのレンズを使って、それらの関連性を理解し、より良い状態に戻すことができます。

今、インターセクショナル・フェミニズムが重要なのは以下の理由からです。

危機の影響は一様ではありません

世界中の国や地域社会が複数の複合的な脅威に直面しています。問題は場所によって異なりますが、住居、食料、教育、ケア、雇用、保護など、既存のニーズが拡大しているという点で共通しています。

しかし、危機への対応では、最も弱い立場にある人々を守ることができないことが多いのです。タイのレズビアン・フェミニストであり人権活動家であるマッチャ・ポーンインさんは、「日常生活で目に見えない存在であれば、危機的な状況において、そのニーズに対応してもらえることはおろか、考慮されることもないでしょう」と言います。ポーンインさんは、危機的な状況下で、多くが先住民であるLGBTIQ+の人々の固有のニーズに対応する活動をしています。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、ウイルスがもたらす課題によって、長年存在していた不平等や何十年にもわたる差別的な慣習が悪化し、いっそう不平等な軌道を描いています。

私たちの闘いを細分化するのではなく、さまざまなグループが直面している経験や課題を受け止めることで、連携する効果を生み、目の前の問題をよりよく理解し、すべての人にとって有効な解決策を見出すことができるようになります。

不公平な状況をそのまま見過ごすべきではありません

インターセクショナル・フェミニストの視点で見ると、さまざまな地域で、相互に関連した複数の問題に同時に取り組んでいることがわかります。互いに連帯し、権力構造に疑問を持ち、不平等の根本原因に対して声を上げることは、誰も取り残さない未来を築くための重要な行動です。

「不平等を『彼らの』や『不運な人たちの』問題と捉えているとしたら、それこそが問題です」とクレンショー教授は言います。「社会の制度によってこうした不平等が再生産されていることに目を向けなければなりません。それには、特権も害も含まれます」。

新しい「日常」は、すべての人にとって公平なものでなければなりません

危機によって、私たちの生活を形作る構造的な不平等が明らかになります。危機こそ大きなリセットのタイミングであり、すべての人に正義と安全を提供する社会を再構築するための触媒です。危機は、これまでの日常に戻るのではなく、「日常」を再定義するチャンスなのです。

すべての人が自由にならなければ誰も自由ではない
公民権・女性人権活動家
ファニー・ロウ・ハーマー

今日の危機に対して、インターセクショナル・フェミニストの考え方を適用することで、私たちはより良く、より強く、また回復力のある平等な社会を作り直す機会をつかむことができます。

「新型コロナウイルス感染症は、私たちに貴重な機会を提示してくれました」と語るのは、サモア被害者支援グループ会長のシリニウ・リナ・チャンさんです。チャンさんは、コロナ禍でドメスティックバイオレンスの被害者への対応を改善するよう訴えています。「私たち全員がリセットする時です。自分の心地よい場所から外に出て考え、サポートを必要としている隣人に目を向ける時です」。

(翻訳者:結城直美)

カテゴリ: ニュース

寄付する