被害者を信じ、今こそ行動を。モロッコ、レイラさんのストーリー。

記事をシェアする

2021年12月9日

世界全体でみると暴力被害を受けた女性のうち、警察に助けを求めるのは10人に1人にすぎません。しかも、助けを求めた人の多くが警察や司法関係者の不適切な対応によって、司法手続きを途中でやめてしまいます。女性の司法制度の利用は、被害者を信じ、日々行動を起こすことから始まります。UN Womenは、16日間にわたる「女性に対する暴力撤廃キャンペーン」に関するこの特集シリーズを通して、被害者の声を伝え、生活や地域社会を変革するプログラムを紹介します。

注意:この記事にはジェンダーに基づく暴力の描写があります。

「彼は私を愛しており、すぐにプロポーズをするつもりだと言いました。私はその言葉を信じました」と、レイラ・ベンナニさん*は勤め先の社長との関係を明かしてくれました。「しかし、彼は私が従わないと必ず私を殴りました。私は性的暴力から精神的虐待まであらゆることに耐えました。暴力は日に日にエスカレートしていきました。私は完全に支配され、彼に抵抗するすべはないと思い込まされていました」。

友人に連れられてやっと警察に行った時、レイラさんは希望を失っていました。「私の人生はもうどうすることもできない状態にありました。私は未婚で妊娠していて、孤独だったので(警察が)信じてくれないのではないかと不安に思っていました」と彼女は語りました。

 2019年の全国調査 によると、モロッコでは性的暴行を受けた女性の100人に3人しか警察に相談していません。恥ずかしい思いをすること、警察に責められることを恐れ、また司法制度への信頼もないので、多くの女性は助けを求めることを躊躇しています。

カサブランカ警察暴力被害女性のための部署でチーフを務めるサリハ・ナジェさん 写真:UN Women/モハメド・バキル

レイラさんは、暴力被害女性のための部署で女性警察官にあたたかく迎えられ、安心しました。「彼女はまず、どんなことにも解決策はあると言ってくれました。私はこの言葉を決して忘れません。今では私の人生のモットーになりました。彼女の言葉に励まされ、私はすべてを話しました。彼女は親身になって丁寧に話を聞いてくれました」。

「最初は不安で仕方ありませんでした。でもその女性警察官と出会ったことで私にもまだ人生を取り戻すチャンスがあると感じました」と、はじめてこの部署に来た時のことをレイラさんは振り返ります。彼女は地域にあるシングルマザー用シェルターを紹介してもらい、やり直すチャンスを得ました。

「2年前に生まれた娘は私の希望です。娘の名前はアラビア語で『抵抗』という意味です。このシングルマザーのシェルターで幼い娘の世話をしながら勉強を続け、最近数学の学士号を取得しました」と、娘の手を握りながら言います。

ジェンダーに基づく暴力を終わらせるためにすべきこと

行動を起こす方法

  • * 被害者の声に耳を傾け、適切な支援サービスを紹介する。そして #OrangeTheWorldを通じて被害者の声を拡散する。
  • * 女性の権利団体に資金を提供する。まず #Give25forUNTF25 challengeに参加する。
  • * 声を上げる。仲間に行動を省むよう促し、性差別的な言動に声をあげ、誰かが一線を越えたら指摘する。

警察に対する信用と信頼は、犯罪の抑止と地域の安全に不可欠です。

専門的な研修を受けた警察官がジェンダーに基づく暴力に対応すれば、被害者が虐待について相談し、司法、保健、心理などのサービスを受ける可能性が高くなります。こうした エッセンシャルサービス(欠かすことのできないサービス) によって被害者やその家族、地域社会を癒すサポートをし、一方で女性や地域社会に向けてこうした暴力は罰せられるべき犯罪であるという明確なメッセージを発信することで、暴力の連鎖を断ち切ることができます。

ここ数年にわたり、モロッコの国家安全保障総局はUN Womenのサポートとカナダ政府の資金援助を受けて、女性被害者への対応を改善し、女性への暴力を防ぐために国家警察の再編を行いました。2018年には、132か所の警察署に暴力被害女性のための部署が新設されました。調査任務に加え、現在この部署では聞き取り、記録、付き添い、紹介といった被害女性への初期対応の質の向上に力を入れています。現在440の地区警察署すべてに、女性被害者を最寄りの専門部署に紹介する専任の職員がいます。

4年にわたるプログラムを通して幹部警察官たちが研修を受け、女性の被害者が最初に直面する多くの障壁が取り除かれてきました。例えば、被害者は警察署長や部署長に直接連絡することができます。

「女性が警察に助けを求めるには大きな決意と勇気が必要です」と、カサブランカ警察署暴力被害の女性のための部署のチーフ、サリハ・ナジェさんは言います。「私たちの役割は、被害者がここにいれば安全で落ち着けると感じられるまでじっくり時間をかけて信頼を得たうえで、自分の身に起こったことを話してもらうことです」。

ナジェさんはUN Womenのプログラムを通して専門的な研修を受けました。そして今、同じ部署の警察官に対し、ジェンダーに基づく暴力への対応について被害者中心のアプローチを用いた研修を行っています。2021年の時点で、30名の上級警察官と部署長がこのプログラムを通した研修を受けています。

新型コロナウイルス感染症が拡大した時、モロッコの警察は前例のない世界的な危機の中にあっても、暴力の被害者をサポートする準備を整えていました。他の多くのエッセンシャルサービスが閉鎖される中、警察の被害女性のための部署と裁判所はずっと開かれていました。さらに、モロッコは24時間通話無料のヘルプライン、電子苦情受付制度、オンライン法廷などを整備して、被害者がリモートで相談や司法利用ができる手段を拡充しています。

最近では、法律を改正する取り組みもみられます。モロッコの刑法は婚外性交渉を犯罪としているため、未婚の女性やレイプの被害者が虐待について相談しにくくなっています。UN Womenは、この法律を変えようと活動している25の女性団体から成る連合をサポートしています。2019年と2020年に議会に提出された法案に添付した意見書では、暴力の被害者の平等な保護、夫婦間のレイプも含めたレイプの明確な定義、婚外性交渉の非犯罪化を要求しています。

*被害者の特定を避けるため仮名にしました。

もしあなたが虐待を受けて、恐怖や不安を感じ援助を必要としているなら、支援サービスを利用できます。 こちらヘルプラインを掲載しています 虐待の共通の兆候と助けの手を差し伸べる方法はこちらでご覧いただけます。

(翻訳者:早乙女由紀)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

寄付する