人身売買やジェンダーに基づく暴力をなくすために、タイの女性移住労働者たちがコミュニティで行っている取り組み

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2021年12月10日

2021/11/15

移住は人生を変えるような経験になることがありますが、移住労働者は、人身売買やジェンダーに基づく暴力の被害を受けるリスクが特に高くなります。タイのソーシャルワーカーで、自身も移住労働の経験があるサン・メー・カインさんは、被害にあった女性移住労働者が暴力を受けた経験を乗り越え、コロナ禍においても安定した明るい未来を築けるよう支援しています。

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タイのマップ財団で「教育とアイデンティティのプロジェクト」を担当するサン・メー・カインさんは、「移住は私に力を与え、現在の私を作ってくれました」と語ります。ミャンマーで生まれ育ったカインさんは、14歳のときにタイに移住し家事労働者となりました。

「私は末っ子で、両親を助けたいと思っていました。当時はひと月に3,500タイバーツ(約100米ドル)もらっていました。自分とミャンマーにいる家族のためのお金を稼ぐことができ、私は嬉しくてたまりませんでした」と話します。

「でも、労働環境は搾取的なものでした。休みももらえず、子供として適切なケアも受けられず、一日中働かなければなりませんでした。しかし、私は自分に権利があることを知らなかったので、権利を主張しようとは思いもしませんでした」。

家事労働者として2年間働いたのち、カインさんは蘭農園や建設現場など、さまざまな職場で働きました。「収入が増えるにつれ、より多くの自由を得ました。これは、タイで出会った善良な人々の支援がなければありえなかったことだと思います」。

女性移住労働者は、移住によって経済力をつけ、自信を持つことができます。しかし、家族や確立された地域のネットワークから離れるので、どこで必要なサポートを受けられるかがわからずに苦労する女性がたくさんいます。虐待する夫の元を去る強さを見出したカインさんは、同じ移住者コミュニティの他の女性たちもジェンダーに基づく暴力から解放されるよう支援したい、と考えました。

逆境にあって強さを見出す

「家族を守りお金を稼ぐといった伝統的な父親の役割は、男性にしかできないと思っていました。娘がまだ小さかったこともあり、夫と別れることが怖くて夫からの暴言や暴力に耐えていました。でも、ある日気づいたのです。私も夫のように働いているし、夫のように収入もあるし、おそらく夫よりもしっかり娘のことを守っている、と」。

「夫がいなくても、私は娘にとって最高の親になれるという確信がありました。すべては、移住経験を通して得た、経済的な自立と自分への自信のおかげでした。女性が自信を持ち、自分の権利についてもっと知っていれば、暴力の連鎖から抜け出す心構えがしっかりできると思います。私の役割は、女性たちが自分の可能性に気づくよう導き、暴力から逃れるための勇気のいる困難なプロセスをサポートすることです」と、カインさんは熱く語ります。

現在、カインさんはソーシャルワーカーをしています。そして、ミャンマーからの移住者が多いチェンマイ県で、様々な分野の専門家が集まる支援チームの一員として活動しています。彼女は、暴力や人身売買を経験した移住女性とその子どもたちの支援にあたっています。

「彼女たちを見ていると、かつての自分を見ているようです。彼女たちは、女性はこうあるべきという考えがあるせいで、まだ発揮できていない、無限の潜在能力を秘めていると思います。新型コロナウィルス感染症拡大で誰もが困難な時を過ごしていますが、虐待のある関係から逃れられない女性にとっては、とりわけ辛い状況です。暴力被害の件数は増加し、暴力の度合いも激しくなっています」。

移住者が自らのコミュニティで支え合う

カインさんのソーシャルワーカーとしての活動は、UN Womenと国際労働機関(ILO)が、国連薬物犯罪事務所(UNODC)と共同で実施している、安全と公正プログラムの支援を受けています。このプログラムは、女性と少女に対する暴力をなくすためのEUと国連による複数年にわたる「スポットライト・イニシアチブ」の一環です。タイでは、このプログラムはメーソット、チェンマイバンコクで各地の市民社会組織と協力して進められており、地域の標準的な実施手順を作成して連携体制を強化しています。

タイのUN Womenナショナルプログラムコーディネーターであるコーンウィライ・テップンコーンガムさんは、「カインさんのような女性たちとの協力はとても重要です」と話します。「彼女たちは、移住労働者としての実体験があるので、女性移住労働者たちの日々の現実も最善の支援策もわかっています」。

このプログラムでは、女性の移住労働者を効果的に支援するために、ASEAN地域で同様の活動をしているグループや市民社会組織の支援もおこなってきました。「暴力を受けた女性移住労働者が緊急の支援や助けを求めるのは、友人、仲間の女性移住労働者、地域の市民社会組織であることが、調査からわかっています」と、UN Womenアジア太平洋地域事務所で、女性に対する暴力根絶の専門員を務めるヴァレンティーナ・ヴォルペさんは指摘します。

「移住女性同士の助け合いや情報共有のため、安全と公正プログラムは、彼女たちの出身国、通過国、目的地国で、さらには国をまたいで、移住女性のネットワークを作るよう奨励し、支援しています」。

カインさんは、自分を必要とする人がいる限り、自分の仕事に終わりはないと言います。「私は、紹介プロセスが女性移住労働者とその子供たちにとって、より安全で、よりジェンダーに対応したものになるよう取り組んでいます。また、タイ語を話せないミャンマー人女性のための通訳もしています。移住女性たちが、もっと安心して、自信を持って、安全に過ごせるようにすることが、私の仕事です。彼女たちの勇気にはいつも励まされています。それを原動力に、すべての女性と少女が暴力と人身売買から解放される日まで、活動を続けます」。

(翻訳者:祖父江美穂)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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