人身取引と強制帰還を経て:コロナ禍にあるエチオピアで、移住労働から帰国した女性サバイバーへの支援

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2022年2月13日

2021/12/15

「森の中で逃げだしたところを、兵士たちに後ろから銃で撃たれました。レイプされ殴られた少女もいました。(隣国で)警察に捕まったときにはトイレの横で寝るように言われ、食べるものも乞わなければもらえませんでした」と、アレム・キフレ*さんは、移住労働時の体験について話してくれました。「非正規移民は犬以下の扱いを受けます」。

アレム・キフレさんは、善きサマリア人協会(GSA)のシェルターで治療とカウンセリング、職業訓練などを受けた後、GSAから開業資金を受けて故郷に戻り、小さな喫茶店を開いて経営しています。写真:UN Women/テンザエ・イマネ

新型コロナウイルス感染症がエチオピア全土に拡大するにつれ、以前から高かった国内の失業率がさらに上がり、渡航制限によって何千人ものエチオピア人が安全な移民ルートを失いました。キフレさんは子どもたちを養うのに必死だったので、他の多くの人たちと同じように仕事を約束する密航業者に頼りましたが、その結果、異国で3か月間投獄されたあげく、本国に強制送還されてしまいました。

「エチオピアに戻ったときは、一文無しで絶望していました。息子は道端で寝泊まりをし、娘は近所の人の家に身を寄せていました。このような状況では、実の家族でさえも心が離れてしまいます」と、キフレさんは言います。

2020年には、新型コロナウイルス感染症の大流行のため、約55万人の移民が湾岸諸国からエチオピアに帰国したと推定され、その多くが移民中に経験した暴力によるトラウマを抱えていました。需要の急増にもかかわらず、シェルターには新型コロナウイルスへの感染を防ぐのに十分な隔離スペースや個人用保護具(PPE)の備えがなく、対応能力のある人材も不足していたため、すべての帰国者を受け入れることはできませんでした。

左:GSAシェルターでの職業訓練として調理技術を学ぶ女性たち。右:GSAから提供された物資で小さな食料品店を開業した帰国者。写真提供:GSA

非正規移民の犠牲者と出稼ぎ女性のための安全な場所と新たなスタート

キフレさんは、2020年12月に善きサマリア人協会(GSA)が運営する女性専用シェルターの1つに紹介されました。GSAシェルターは、人身取引や強制送還などを経て帰国し、その過程で暴力を受けた女性たちに安全な宿泊施設、医療、心理カウンセリング、職業訓練などを提供しています。ここでビジネススキルやリーダーシップ、生活する上で必要な技能などの職業訓練を修了した女性には、起業するために必要な少額の助成金が与えられます。

「GSAのサポートを受けたことで、希望と勇気を持つことができました」とキフレさんは述べています。シェルターでは応急治療とカウンセリングを受け、調理訓練も受けました。現在キフレさんは、GSAから支給された開業資金を元に、故郷で小さな喫茶店を経営しながら2人の子どもを育てています。

左:GSAシェルターの寝室の様子。右:シェルターで暮らす女性が家族と再会した場面。写真提供:GSA

GSAのヒルト・エバベ事務局長は、「私たちの役割は、自分たちも働くことができるし人生を変えることができる、と女性に信じてもらうことです」と語ります。「私たちは、愛と思いやりを持って暴力のサバイバーにサービスを提供しています。彼女たちが成長して他の女性たちのロールモデルになっていく姿を見守ることが私たちの最大の喜びです」。

2020年の8月から12月にかけて、エチオピアの首都アディスアベバと北部の都市ゴンダルにあるGSAシェルターでは、人身取引や強制送還などを経て帰国した暴力のサバイバーである55人の女性と少女たちのリハビリを支援しました。その後彼女たちは全員自分のコミュニティに戻って生活を再建し、自活できるだけの収入を得ています。

カウンセリングによってトラウマを癒す

出稼ぎのために移民する女性と少女は、移動中や移動の待機中、目的の国に到着後、そして母国に戻るときなど、あらゆる場面で暴力を経験する恐れがあります。暴力のサバイバーにはさまざまなサービスが必要ですが、2016年に行ったUN Womenの調査によると、大半のサバイバーが、シェルターのサービスで最も役に立ったのはカウンセリングだったと回答しています。

ベザ・ハイル* さんは、エチオピアにいる母親の医療費を賄うためにレバノンのベイルートに移住し、メイドとして働きました。しかし、雇用主から肉体的、精神的な虐待を受け、給料も支払われませんでした。ハイルさんがレバノンで苦しい日々を送る中、母親は病状が悪化して亡くなりました。

「私の心は粉々に壊れました。母を救うことができなかったからです。罪悪感にさいなまれ、うつ状態から薬物中毒になりました。生きる目的を失ったのです」とハイルさんは述べます。その後、新型コロナウイルス感染症の大流行がレバノンにも及び、ハイルさんはエチオピアに強制送還されました。そして、アディスアベバにあるアガルエチオピア慈善協会の女性シェルターを紹介され、集中的にカウンセリングを受けました。

「私が自暴自棄になっていたときに、カウンセラーは私を信じて励ましてくれました。セッションを何度か受けているうちに、『あなたには生きる価値がない』というそれまで頭の中で聞こえていた声が聞こえなくなりました。まるで新しい生活を始めるチャンスを与えられたようでした」とハイルさんは言います。

ハイルさんを担当したカウンセラーは、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オランダの政府が資金を提供して2020年に行われた、UN Womenのジェンダーに基づく暴力カウンセリングに関する研修を修了した34人の専門カウンセラーの一人でした。この研修は、国連の「暴力の対象である女性と女児のための不可欠なサービスに関する共同グローバルプログラム」の下で開発された「Essential Services Package(エッセンシャルサービスパッケージ)」から、「Do No Harm(「害悪を及ぼしてはならない」という諸刃の援助への警告)」と「女性のエンパワーメント」という基本原則に基づいて行われたもので、暴力のサバイバーに、各自の状況に合わせたカウンセリングとセラピーを提供するための具体的な方法に焦点を当てています。

「これまでのことを振り返ってみると、いかに自分が力強くさまざまな困難を生き抜いてきたのかがわかります。私は生まれ変わりました。今はとても幸せです」とハイルさんは述べました。

2020年、エチオピアの女性子ども青少年省は、UN WomenおよびUNFPA(国連人口基金)と連携し、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オランダの政府から資金提供を受け、国連のEssential Services Package(エッセンシャルサービスパッケージ)に沿って、エチオピアでシェルターを提供するための指針と原則を定める、シェルターサービスに関する国家標準業務手順書(SOP)を完成させました。このSOPは、世界的な「ジェンダーに基づく暴力に反対する16日間のUNiTE女性に対する暴力撤廃キャンペーン」のスタートに合わせて2021年11月25日に発表されました。

*個人情報保護の観点から仮名を使っています。

(翻訳者:松本香代子)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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