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活動現場から

【15のストーリーNo. 4】インドの観光業を変える女性たち

2025年7月、UN Women(国連女性機関)は15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをシリーズでお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。

 

インドの観光業を変える女性たち

〜女性の活躍が地域経済を活性化し、暮らしを変える〜

 

観光業に携わる人は世界全体で半数以上が女性。にも関わらず、女性がこの11兆USドル規模の産業の表舞台で活躍することはまれで裏方の仕事に携わることが多いのは、とりもなおさずジェンダーの固定観念やケア労働の負担など様々な課題があるから。

でも、トレーニングや資金援助によって女性に表立った役割が与えられると、女性自身だけでなく観光業全体に、さらには地域経済全体にまでメリットが生まれます。UN Womenが支援する職業訓練プログラムに参加した二人の女性のストーリーがそれを物語っています。

 

■ 『女性のための安全な観光地』プログラム

もしあなたがインドの見知らぬ土地に観光に行き、男性ガイドばかりの中に女性ガイドを見つけたら—やっぱりホッとしませんか?

インドの真ん中、マディヤ・プラデーシュ州はインダス文明の遺跡が発見されたところです。UN Womenは州観光局(MPTB)と共同で『女性のための安全な観光地』と呼ばれるトレーニング・プログラムを進めています。この職業訓練プログラムは、家事労働に縛られていた女性たちをインド観光の新たな顔となるよう導き、多くの女性たちの暮らしを変えています。それだけでなく、女性の役割に対する社会の認識をも変え、地域経済の活性化に一役買っています。

 

◇ マドゥ・ヴェルマさん|船頭・ツアーオペレーター

川岸で“ただ見るだけの人”から川に漕ぎ出す公式ガイドへ

 

写真: Alok Choubey, ジェンダー・アドバイザー, MPTB

「この職業訓練に参加するまでは、女性が自分のお金を持てたり、地域の問題に意見を言えるなんて思いもしなかったわ」

そう振り返るヴェルマの日常は、ほんの一年前まで他の大勢の女性たちと全く同じ。そこには家事とささやかな希望があるだけでした。今ヴェルマが船で案内しているナルマダ川は、かつては男性たちに支配されていました。“聖なる水域”への観光案内で収入を得ているのは男性ばかりだったのです。

ですから、最初にUN Womenの連携パートナーである草の根女性団体の支援を受けてこの職業訓練プログラムに参加しようとしたとき、家族は反対し、近所の人たちは噂しました。彼女自身も「女性がボートの上で見知らぬ人たちに話をするなんて、私にできるかしら?」と不安でした。「最初は人前で話すのが怖くてたまらなかった。でも、今ではボートを操縦しながら、祖母が語ってくれたこの土地の神話や伝説を披露します。観光客は耳を傾け、質問し、微笑んでくれるのよ。私も笑顔になるわ。」

ナルマダ川で働くヴェルマをはじめとした女性の公式ガイドたちの存在は、彼女たちを縛っていたジェンダーの固定観念に風穴を開けると同時に、訪れる人々に安心感を与えています。女性観光客たちからは、女性ガイドがいる観光地では、快適だし歓迎されていると感じるとの声が聞かれます。

また、ヴェルマの月収は大幅に増加。そのおかげで、彼女の娘は学校に戻ることができました。今では夫も彼女の仕事に誇りを感じ、応援してくれていて、他の女性たちもこのプログラムに参加するようになりました。

ヴェルマは言います。「以前はよく川岸に立ち、他の人たちが自分らしい人生を生きる姿をただ見ていました。でも、今では自分で自分の進路を舵取りし、他の人たちが自らの道を見つける手助けをしているんです。」

 

◇リーラ・ゴウダさん|プロ・ガイド

母の意志を受け継いで

 

写真: Joyatri Ray / UN Women

 

「私にはわかっていたの、周囲の懐疑的な声よりも自分の知識と情熱の方が力強いということを。そして満足してくださるお客様一人ひとりの存在が、ここに私の居場所があることの証だった。」

マディヤ・プラデーシュ州の小さな村で初のホームステイを始めた母のもとで育ったリーラには、旅人たちの会話がBGMでした。「この辺りの女性の大半がよそ者と話すことすらなかった時代に、母はホームステイを始めたんです。英語もほとんど話せず、正式な教育も受けていないのに、世界中から訪れるお客様を歓迎する母の姿を見て育ちました。」

ホームステイは経済的な安定をもたらしただけでなく、リーラの中に夢を芽生えさせました。幼いリーラは、客人たちを連れて村を案内し、薬草のことを教え、民話を語るうちに、自分の才能――物語を紡ぐ力に気づいたのです。

母の励ましと草の根団体の支援を受けて、リーラは『女性のための安全な観光地』プログラムに参加。認定地域ガイドとなり、観光管理、自然保護意識、文化解説に関する実践的なスキルを身につけました。

男性中心の分野を進んでいく中で、リーラはよく懐疑的な視線を浴びました。ツアーの引率や車両・宿泊の手配、地域の歴史を説明する力量を疑問視する声もありました。「でも、私の知識と情熱はそんな疑念よりも力強いと確信していたの」と彼女は自信を持って語ります。ホームステイは、現在、リーラのリーダーシップのもと持続可能な事業へと成長しています。リーラはゲストを地元の農家、織物などの伝統職人と結びつけ、地域社会全体に利益をもたらしています。

一人ひとりの女性の成功がもたらす波及効果

『女性のための安全な観光地』プログラムは、マディヤ・プラデーシュ州の50の観光地で、1万人の女性にホスピタリティ研修を、4万人に護身術を指導することを目指しています。

「女性が公共の場で存在感を示すとき、女性はその場所を取り戻すのです。自分自身のためだけでなく、すべての女性のために」と、観光局のシェオ・シェカール・シュクラ事務次官は言います。個人の経済的エンパワーメントの影響は個人をはるかに超える―このプログラムがその光景を見せてくれています。

今、村の少女たちを指導しているリーラは言います。「母が扉を開け、私は廊下を作ろうとしているの。村の少女たちが、私がツアーを案内したりホームステイを経営する姿を見れば、可能性を実感できる。真の変化はこうして始まるのよ。」

UN Womenインド事務所代表代理のカンタ・シン氏。
「女性が地域観光においてリーダーシップや意思決定の役割を担うと、観光地のイメージが一変します。女性旅行者が安心して滞在できると感じるだけでなく、表に出る女性に対する地域社会の意識までもが変わり始めるのです。」

UN Womenはこれからも地域の行政や草の根団体と手を携えて、一人ひとりの女性をエンパワーし、それによって地域の経済を活性化し、社会に真の変化をもたらす支援を続けます。

 

 

 

(出典)
https://www.unwomen.org/en/news-stories/feature-story/2025/07/how-women-are-transforming-tourism-in-india