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解説:北京宣言30年、約束を守り続けるために

画期的な北京宣言から30年。ジェンダー平等の進展は停滞、あるいは後退している。そのビジョンを再燃させるために、今すぐ団結した行動を。

2025年7月9日付

ローラ・ターケット

30年前、何千人ものフェミニスト活動家と189か国の政府代表が北京に集まり、ジェンダー平等を実現するための革命的なアジェンダである北京宣言及び行動綱領を全会一致で採択しました。これは今でも、女性と少女の権利を促進する、最も先見性のある包括的な枠組みとして世界的に支持されています。時代の課題を明確かつ意欲的に特定し、その原則は30年経った今でもなお緊急性があり、重要であり続けています。

しかし、この歴史的な約束から30年を迎える今年、私たちは不愉快な真実に向き合わなければなりません。世界の至る所でジェンダー平等の進展が停滞し、後退すらしています。暴力的な紛争が拡大し、気候危機は悪化。北京行動綱領が解体を目指した「力」、すなわち、家父長制、貧困、暴力、不平等などの「力」は、現在も存続しているだけではなく、むしろ強まり、権威主義の台頭と不平等の拡大で勢いを得た退行的な政治によって武器化されています。

時計の針は刻々と進んでいます。持続可能な開発目標(SDGs)の期限である2030年まで、残り5年を切りました。ジェンダー平等は単独の目標ではなく、他のすべての目標を達成するための前提条件です。そして今、世界はその達成に失敗しつつあります。

SDGsが危機にさらされる中、女性運動は、「北京で交わした約束を果たすために立ち上がるのか、それともその約束を、過去の意欲的な取り組みに対する単なる脚注にしてしまうのか」を問いかけています。

2015年、イスタンブールで行われた国際マラソンで「女性に対する暴力にノーを」というスローガンが採択。トルコは、女性を暴力から守るための欧州評議会の人権条約「イスタンブール条約」を批准した最初の国。だが2021年、トルコはこの条約を非難して脱退。写真提供:ミュスリュム・バイブルス(UN Women)

世界的な合意から今日まで:現状を検証する

北京行動綱領は単なる会議の成果を超えるものでした。それは、政府に断固とした行動を求める変化に対する世界的な合意であり、教育と健康から暴力と貧困、統治と政治参加から武力紛争と環境破壊にいたるまで、12の重大問題領域について明記しています。1995年以来、フェミニストは北京行動綱領を活用して、ジェンダー平等を政策立案の周縁から中心部に据え直してきました。これは、人権への揺るぎないコミットメントに支えられたすべての国にとっての普遍的なアジェンダです。

北京宣言から30年を経て、多国間主義への信頼は薄れつつあるものの、その呼びかけは今も響きわたっています。150か国以上が北京行動綱領の実施の進捗状況を報告していることが、その継続的な重要性の証です。あらゆる地域の政府が多大な努力を続けてきました。

  • 90%の国が、女性に対する暴力を終わらせるための法律を可決または強化したと報告し、80%近くの国がそれらの法律を実施するための行動計画があると回答
  • 女性の貧困を削減するために、79%の国が社会的保護制度を強化する取り組みについて報告。2019年の70%から増加
  • 3分の2の国が、高齢者の介護サービスを強化していると報告。2019年の46%から増加。世界的な高齢化社会という観点において極めて重要

このような取り組みににもかかわらず、その結果は満足のいくものではありません。

  • 世界全体で女性と少女のほぼ10人に1人が極度の貧困状態にある
  • 女性の3分の1が生涯にわたって身体的または性的な暴力を受け続け、デジタル技術の悪用がその状況を悪化させている
  • 女性の有償雇用の機会は20年間改善されておらず、大多数は権利の少ない、低賃金で非公式の仕事に就かざるを得ない状況である
  • 議会でのジェンダーバランスは改善され、女性の参加によって効果が出ているにもかかわらず、和平交渉や気候交渉の場から女性は依然としてほぼ排除されている

最も憂慮すべきことは、女性の権利に対する危険な反発が世界中で起きており、女性蔑視(ミソジニー)を政治的手段として武器化し、かつてフェミニストの声が活発に聞かれた市民社会の場を窒息させていることです。4分の1の国の政府が、ジェンダー平等に対する反発が北京行動綱領の実施における進展を妨げる障壁となっていると言っています。

これは偶然ではありません。政府と市民社会双方の関係者の一部が、ジェンダー平等を損ない、民主主義制度を侵食するために画策した戦略です。伝統主義的な政策が「家族の価値観」として再ブランド化され、自分の選択、身体、発言に対する女性の自主性が、公共の場とプライベートな場の両方で攻撃を受けています。

今後10年間で5人の兆万長者を生み出そうとする経済システムの進展が、問題の大部分を占めています。低・中所得国で暮らす数十億の人々が、保健、教育、社会保障、激化する気候非常事態からの保護を受けることができない一方で、一握りの個人が想像を絶するほどの贅沢な暮らしをしています。

ジェンダー関連のSDGs目標の達成には、年間4,200億米ドルの費用がかかりますが、より公正で公平な世界のために支払うには、小さな代償です。このような資源を動員するということは、貧しい国に対する持続不可能な債務を帳消しにし、最も裕福な人々や企業が公平な負担を支払うように税制を強化し、開発援助を増額するということです。公的資源は戦争ではなく、貧困との闘いに使うべきなのです。

「北京+30」:回顧するのではなく、決起を促す機会

北京宣言採択30周年を、過去を回顧する祝典にしてはなりません。緊急の再コミットメントと大胆な加速を呼び掛ける機会です。それは新世代の若いフェミニストや活動家にとって意味のあるものでなければなりません。幸いなことに、変化のためのツールは既にあり、過去30年間の教訓を土台にしてさらに発展させるチャンスです。グローバルな協議を通じて定義され、何が効果的かを示す証拠に基づいた北京+30行動アジェンダは、真の進歩を促進するための6つの強力な行動について述べています。

  1. デジタル革命:ジェンダーによるデジタル格差を解消し、デジタル経済における女性をエンパワーメントする。
  2. 貧困からの解放:女性と少女を貧困から救うために、公共サービスと社会的保護に投資する。
  3. 暴力ゼロ:女性と少女に対する暴力を終わらせるための国家行動計画を実施し、資金を提供する。
  4. 完全かつ平等な意思決定権:女性のリーダーシップを加速するためにクォータ制や特別措置を活用する。
  5. 平和と安全保障:女性主導の平和構築と危機対応に資金を提供する。
  6. 気候正義:環境と生物多様性の取り組みにおいて女性の権利を中心に据える。

行動への呼びかけ:みんなで力を合わせよう

目を背けている余裕はありません。不平等が拡大し、権威主義が台頭し、人権を否定する言説が広まる中、国際社会は勇気、団結、緊急性を持って行動しなければなりません。

  • 各国政府は北京行動綱領に再度コミットし、その実施に十分な資金を提供できるはずである
  • 国連は勇気を持って各国を主導し、多国間主義を強化し、国家の説明責任を支援しなければならない
  • フェミニスト運動を保護し、資金提供し、変化の主要な推進力として認識するべきである
  • 男性と少年は女性や少女の味方として立ち上がり、復活の兆しを見せる家父長的な男性性に異議を唱えることができるはずである
  • 民間セクターは、言葉だけでなく資源提供と政策調整を通じて解決策の一部とならなければならない

ゼロから始めるわけではありません。私たちには枠組み、データ、証拠、そして民衆の力があります。これからの5年間がとても重要です。このチャンスを捉えて、前世代のフェミニストが北京で始めたことを私たちの手で完遂しましょう。私たちは、ジェンダー平等と、あらゆる場所ですべての女性と少女のエンパワーメントを達成するために、ひとつになってコミットメントを再燃させ、それを維持しなければなりません。


ローラ・ターケット氏はUN Womenの研究・データ担当副部長です。ターケット氏は、主要な研究活動やデータイニシアチブを主導してUN Womenの目標設定に対して情報を提供し、市民社会と政府が変化を模索し実行できるようエンパワーメントしています。彼女の成果には、「世界の女性の進歩」の3つの版や、最新の「フェミニスト気候正義:行動の枠組み」などがあげられます。

元の記事はsdg-action.org.に公開されています。

(原文)
https://www.unwomen.org/en/news-stories/op-ed/2025/07/op-ed-30-years-on-keeping-the-promises-of-beijing-alive

(翻訳者:松本香代子)

※ 翻訳者の方々が、ボランティアでUN Womenの記事を翻訳してくださっています。
 長年のご協力に感謝申し上げます。