なぜ女性はこれほど疲弊しているのか。ケア労働とメンタルロード
家庭、職場、社会を回している目に見えない労働。ケアの担い手の燃え尽き症候群について私たちができること
2026年6月24日付
「うちに食べ物は十分あるか」「うちの子どもの予防接種は済んでいるか」「私が仕事に行っている間、誰が病気の母の面倒を見るか」などと常に頭の中に問いかける声が聞こえてきて、誰かが下さなくてはならない決断と誰かがこなさなくてはならない作業のリストがひっきりなしに迫ってくる感覚が分かりますか。
これがメンタルロードと呼ばれるもので、多くの家庭でケアの負担の一環として主に女性の肩にかかっています。家族、家庭、地域社会を支えるという、ほとんど目に見えない労働です。これは、家族の中でどのようにケア労働が分担されているかや、支援やサービスが利用できるかなどによって、重くて抱えきれないと感じられる場合もあれば、楽で単純だと感じられる場合もあります。
UN Womenは、ケア労働について考え直す余地はあり、またそうする必要があると考えています。支援や休息、正当な評価もほとんどないままこうした責任を一人で担うことは、ケアの担い手の燃え尽き症候群につながり、日常生活全般に影響が及ぶ可能性があります。しかし、より平等で支援的なケア政策の後押しによって意識が向上し、ケアの責任を分け合う方向へと変化できれば、その負担を軽くすることができます。
知っていましたか?
無償のケア労働に金銭的価値が付与されたなら、一部の国ではGDPの40%を上回り、製造業、商業、運輸業の規模を上回る場合もあります。しかし、社会は依然として無償であることを当然のこととして受け止めています。
更に詳しく
メンタルロードとは?
メンタルロードとは、目に見えない精神的・感情的な労働です。これは、他者の世話、家事の管理、作業の割り振りなど、日常生活において途切れることのない「することリスト」をこなす際に生じます。必要なことや作業について考えて予測し、それらを整理して経過を見守りながら必要に応じて支援をし、確実にやり終えられるようにするのに費やすエネルギーのことです。
家庭や家族の場合には、メンタルロードの影響を受けるのは、親、高齢の親族の介護をする成人した子ども、家事を管理するパートナーや家族、地域社会の幸福のために尽くす人たちです。
職場で懇親会を企画する人、子どもの入学手続きをする人、猛暑の中で健康を害するおそれがある近所の人を気にかける人について考えてみてください。このような見えない労働が、その価値に見合った評価を受けることはめったにありません。
なぜ女性がより多くのメンタルロードを背負うのか?
親類、家族、地域社会の中で、女性は依然として無償のケアと家庭内の責任の大部分を管理しており、それに伴う精神的負担も負っています。
なぜでしょうか? それは、私たちの多くがケア労働についてのジェンダーによる固定観念と、古くから伝わる女性の仕事という神話を刷り込まれながら育ってきたからです。それは、ケア、料理、掃除、家事の管理において、女性は生まれつきより有能で直感に優れているという根強い固定観念です。
こうした役割分担は社会の中で身につくもので、生物学的にもともと備わっているものではありません。
メンタルロードのジェンダーギャップは、親族の中で女性が主たる稼ぎ手である場合であっても当てはまる傾向があります。女性はより多くの作業を同時にこなさなければならない場合が多いので、マルチタスクが得意だとみなされます。しかし、よく知られているようにタスクスイッチング(別の課題に意識を切り替えること)を行うと、誰もが精神的にも身体的にも消耗します。
女性へのこうした見方によって、男性と少年が、自分は女性や少女ほど家事の責任を主導したり管理したりすることには向いていないと考えるようになってしまいます。彼らの役割は助手、傍観者、単なる受け手へと格下げされてしまいます。
実際には、男性も同様にケアを提供する能力があります。ジェンダーの「先天性」や、男性はケアを担うのに不向きであるという長く信じられてきた考えを覆す調査結果が次々と出ています。
こうした格差の影響は波及していきます。母親ペナルティとして知られるようになりましたが、女性は母親になると、収入の減少やキャリアアップの機会の制約に直面する可能性が上がります(それ以前でも、出産適齢期の女性は産休を支援したくない雇用主からの採用差別を受けています)。私たちが行ったヨーロッパ各国での調査では、母親ペナルティがジェンダー賃金格差の原因の60%を占めていました。
その一方で男性は、父親ボーナスを受け、子どもを持つことで賃金が上昇することが多いです。
知っていましたか?
紛争、気候関連の災害、経済的ショックなどで、資源や生活に必要な支援サービスがひっ迫している状況では、女性と少女はケアの担い手としての責任をさらに多く背負わされます。脆弱で紛争状態にある環境では、女性は男性と比べて4倍近い時間を無償のケア労働に費やしています。
母親と父親の間になぜメンタルロードのジェンダーギャップがあるのか?
UN Womenのパートナーである研究団体Equimundoが年次調査シリーズ「世界の父親の状況」を始めて以来、明らかになっていることがあります。それは、男性は家族とかかわりを持つことを大事にしているということです。調査対象の10人に9人の父親が「ほとんどの場合、子どもや大切な人の世話をすることは人生の中で最も楽しいことのひとつである」という項目に対し、「そう思う」または「強くそう思う」と答えており、これは母親の回答の割合と同じです。
しかし、多くの父親がもっと直接かかわりたいと言っている一方で、この願望が必ずしもメンタルロードを分け合ったり、より多くの作業を担ったりすることにつながっているわけではありません。ジェンダーによる固定観念のために、男性は子どもの世話をする責任を優先した場合に社会から偏見を受けることを恐れているのかもしれません。「ケアにかかわる父親」か「良き稼ぎ手」かという間違った二者択一をつきつけられているのです。
多くの育児休暇制度によって、育児の負担がさらに偏ったものになっています。母親と父親両方が育児休暇を取得できる国において、母親が平均で24.7週の有給休暇の取得が認められているのに対して、父親は2.2週しか認められていません。
父親が子どもの世話に時間を使えば、父親自身にも赤ちゃんにとっても大きな効果があることを示す研究結果が増えています。心を込めてかかわった父親は自尊心が高く、社会との結びつきが深く、さらには長生きしていると報告されています。
メンタルロードを分け合うために家族や社会ができることとは?
今こそ女性を燃え尽き症候群に追い込むことをやめて、前に進み始める時です。政府や雇用主には方針やサービス、社会規範の転換を通してジェンダーによるケア提供の格差に対応する重要な役割がある一方、家庭や職場で負担を分担するために私たちができることもたくさんあります。
- ジェンダーによる固定観念を捨て去る。ケアを提供し、計画し、責任を管理するのは誰の役割かということについて自分が持っている前提を理解して問い直す。
- 見えない労働を可視化する。何をやらなければいけないか、それに伴うあらゆることについて率直に語り合う。その作業をしている人を評価し、その人から学び、負担を分かち合う。
- ケアを分かち合う。高齢の親戚でも、障害のある家族でも、病気の子どもでも、互いを思いやる人がより多いほど誰もが恩恵を受けられる。これはチームとしての育児にもあてはまり、子どもが生まれたら母乳をあげること以外、父親は母親ができることなら何でもできる。
- 男の子に早い段階からケアのスキルを学ばせる。家庭や地域社会をまとめる労働の価値と、良いケアの担い手になる方法を教える。子どもたちにジェンダー平等や固定観念について話す。
- ニーズについて共に計画して話し合う。生涯を通じて、私たちは皆ケアを与え、受け取る。自分がケアを受ける側になった時、愛する人が自分のしてほしいことを察してくれるだろうと決めつけてはいけない。早い段階での率直なコミュニケーションこそが皆のストレスを軽くする。
- 雇用主と共により良いケアのための制度を提唱する。育児や家族のための休暇制度など、ケアの担い手を支える制度を求めて職員協議会、労働組合、経営陣、人事部を通して働きかける。
- 地方自治体の代表と連携する。ケアサービスと地方、国家の政策が自分にとって重要であることを伝える。
UN Womenのプログラムはどのようにケアのシステム変革を支援しているか
ケア労働はしばしば私的で個人的な責任として扱われますが、健全な社会と強力な経済は、データ、法と政策、サービスとインフラなどを通したケアシステムに対する公的な投資に左右されます。
Transform Care Global Initiativeを通して、UN Womenはケア労働が家族や地域社会、経済にとって不可欠な公益であると認識されるよう取り組んでいます。ケアを与える人と受ける人の権利を守り、時代遅れの固定観念に異を唱え、ケアシステムを強化するために政府と連携しています。
- 育児のメンタルロードを分かち合う:UN Womenが実施した時間利用調査によると、母親の方がより多くの時間を育児や家事に費やしています。私たちのHand in Handキャンペーンは、若者主導で固定観念を打破する社会実験であり、男性と少年がもっとケアにかかわるよう促しています。その結果、女性と少女がより多くの自分の時間を取り戻しています。
- ケアの担い手の燃え尽き症候群に対応する:ジョージアにおいて、UN Womenは、同国初の家事・ケア労働者組合と提携し、労働者の権利と公正な報酬を実現に向けて取り組んでいます。
- 高齢者介護のストレスを緩和する:ボスニアヘルツェゴビナでは、UN Womenはこの必要不可欠な仕事の価値を認識し、在宅介護支援員に対し専門的な高齢者介護研修プログラムを無料で提供しています。
- 政策を通じた制度的変化を創る:チリでは、先住民の女性や障がいのある女性をはじめとした何千人もの人たちが、UN Womenの支援を受けてケア労働に対する新しい国家的な取り組みの形成に貢献しました。バングラデシュとネパールでは、UN WomenのCaring Citiesイニシアティブによって、地域のリーダーがケアのニーズが最も高い場所を把握し、各家庭が最もケアを必要としているところへ資源を届けることができるよう支援しています。
家族や地域社会を支えるには、まさに「村全体」での協力が必要です。ケアの担い手の燃え尽き症候群やメンタルロードに対処するために、そして女性の酷使を止めるために、「村」はケアのあり方、特に女性と男性、家庭、地域社会、政府、企業との間で責任をどう分担するかを根本的に変える必要があります。
(翻訳者:早乙女由紀)
※ 翻訳者の方々が、ボランティアでUN Womenの記事を翻訳してくださっています。長年のご協力に感謝申し上げます。
