【15のストーリー No. 6】ジェンダー・データを力に変える

2025年7月、UN Women(国連女性機関)は設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。
ジェンダー・データを力に変える
~女性を「カウント」する意義を知ったふたりの話〜
第6話は、UN Womenが力を入れてきたデータの収集・分析・活用
が、ジェンダー平等と女性の権利の変革を導き、命をも救う大きな力になっている、というお話です。タンザニアのラジオ番組担当者とケニアの保健推進員の仕事の現場からお伝えします。
どんな問題も、全容を正しく理解して効果的な解決策を講じるにはデータが不可欠。ジェンダーの問題も例外ではありません。実際、意思決定者が真っ先に求めるのは確固たるデータ。それにも関わらず、データ収集のためにお金を出すことは後回しにされています。
そんな状況を打開するために、UN Womenは2016年から、女性に関するデータの収集・活用・共有というアプローチでジェンダー平等の達成を目指す「ウィメン・カウント・プログラム」を立ち上げ、8000万米ドルを投じてきました。ウィメン・カウントには、「女性を数に含める(統計をとる)」という意味と、「女性は重要な存在である(count = 意義がある)」という思いが込められています。
「ウィメン・カウント・プログラム」が成果を上げてきたのは、緊急な解決が必要でありながら、長年、女性に関するデータが不足してきた分野です。こうした分野で詳しいデータを示すことは、法律・政策・支援プログラムの形成に貢献し、命をも救う力になっています。
■「データの共有が誤解を正し、行動を促しています」
アミナ・モハメドさん|タンザニア・ラジオ番組プレゼンター

タンザニアのザンジバル諸島には若い世代が主導しているコミュニティラジオ局「カティ・ラジオ」があります。アミナはこの番組プレゼンターです。番組ではジェンダーに基づく暴力のデータを発信し、さらには専門家へのインタビューやリスナーからの電話相談も始めています。データは、UN Womenとタンザニアのザンジバル政府統計局が、「ウィメン・カウント・プログラム」の一環としてとりまとめ、2020年以降、毎月メディアに公表しているものです。地区別、年齢別、暴力の種類別にまとめ、さらに2024年からは、障害者関連、起訴率、有罪判決率も含めるようにしました。
「データの共有だけでなく、誤解を正し、支援サービスを紹介し、行動を促すことで、私たちは一歩踏み込もうとしています。これが、ジェンダーに基づく暴力を“特別なこと”ではなく身近な問題としてとらえやすくし、人々が声を上げる自信につながっているんですよ」 とアミナは説明します。
他にもザンジバルのいくつかのラジオ局が、この月次データを番組内で放送し始めました。その背景には、女性が男性から受けた虐待を公に話しにくい文化的規範に対抗する意図があったといいます。
ザンジバル警察の発表では2024年の通報数は1,809件。月次データの公表が始まる前2020年と比べて28%増です。警察も、コミュニティラジオ局の努力が通報数増加に寄与していると説明しています。
◆ジェンダー・データが地方自治体の施策構築を手助け
ザンジバル政府は、各地区の病院にカウンセリング・医療サービス・法的支援をワンストップで提供する12のセンターを開設したうえで、月次データでジェンダーに基づく暴力の増加が確認された地域では追加支援を提供し、警察官に対する被害者対応研修も実施しています。
このように、データは地方自治体が「女性と子どもに対する暴力根絶のための国家行動計画」に基き、施策を構築する基盤になっています。
■ 「避難所内の苦情対応にもすごく有効だったんです」
イザベラ・ンジオキさん|ケニア・地域保健推進員

その夜、地域保健推進員のイザベラは鉄板や木の板がガシャンと崩れる音で目が覚め、続いて近所の人の叫び声で飛び起きました。2024年4月23日、観測史上もっとも激しい豪雨に見舞われたケニアの首都ナイロビで、川が決壊し住民と家屋を飲み込んだのです。イザベラはすぐに駆けつけて救助にあたりました。わずか数週間前にUN Womenと草の根の女性団体が主催した研修で学んだジェンダー・データ分析のスキルが、まさかこれほど早く、しかも重大な局面で試されることになるとは夢にも思っていませんでした。イザベラは、その時の32ページにおよぶ学習ノートとジェンダー・データに関する新たな理解を武器に、直ちに81名の生存者(うち64名が女性、一部は妊娠中)の記録を取り始めました。
ケニア赤十字社は、5年以上この地域で活動し豊富な知識を持っていたイザベラが記録したデータは、妊婦や授乳中の女性、HIV/エイズに感染している人々、下痢に苦しむ子どもたち、喘息や呼吸困難を持つ人々など、災害で最も脆弱な立場に置かれた人々を特定するのに役立ったと評価。食料支援、移動診療所の提供、医薬品・水・衛生用品へのアクセス、政府の財政支援の効率的な配分に大きく貢献しました。イザベラは、「細かく分類したデータが、被災者と支援団体の迅速な連携を可能にしてくれたのよ」と話します。
さらに、データはコミュニティメンバー間の信頼構築にもつながったと言います。「支援の優先順位付けだけでなく、避難所内の苦情対応にもすごく有効だったんです。はじめの頃、避難所の人たちはマットレスなど物資の配分方法に不満を漏らすことがありました。そんな時、私が記録ノートを掲げると、『極めて脆弱な人たちのリスト』を見て落ち着いてくれました。配分が公平かつ透明だと理解し、決定内容に納得してくれたのです。」イザベラは、データの持つ力に驚いたと語ってくれました。
データ収集というと数字の羅列で、命を救う活動からは遠く感じますが、本当は支援活動に欠かせないものだということがよくわかります。
「ウィメン・カウント・プログラム」は2016年以降、ジェンダー・データを大きく改革し、女性と少女の生活に有意義な変化をもたらす原動力となってきました。UN Womenは今、2026年から始まる第3フェーズの準備を進めています。
https://data.unwomen.org/features/how-citizen-gender-data-helped-target-relief-during-floods-kenya-0