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活動現場から

【15のストーリーNo.7】平和づくりを主導したコロンビアの女性たち

2025年7月、UN Women(国連女性機関)は設立から15周年を迎えました。この節目を記念して、世界の女性たちのリアルな声と行動を伝える15のストーリーをお届けしています。女性たちの底知れない強さと希望の物語は、この時代を共に生きる私たちにもインスピレーションを与えます。

平和づくりを主導したコロンビアの女性たち
〜長い内戦を経て世界に示した新しいかたちとは〜

第7話は長い国内紛争の歴史を歩んできたコロンビアで、平和を祈り、諦めずに闘い続け、ついに和平合意を実現した女性たちの物語です。


長く続いた内戦と女性たちの苦難

祖母、母、娘―。コロンビアでは戦争が数世代にわたる人々の日常でしたが、2016年11月、コロンビア政府と反政府武装組織「コロンビア革命軍(以下FARC)」の間でついに和平合意が締結されました。これは、52年にもおよぶ、中南米で最も長期化した国内武力紛争に終止符を打つ画期的なできごとでした。

この和平合意が成立するまで、多くの女性、特に辺境の農村地域に暮らす女性たちは、性暴力に遭い、家族を失い、土地や生計手段を奪われ、絶え間ない不安と恐怖の中で暮らしていました。1957年から2016年にかけて、ジェンダーに基づく暴力の被害に遭った人は3万5千人以上にのぼり、その90%は女性です。それでも、彼女たちは諦めることなく平和を願い続け、いつか声を上げようと準備を整えていきました。

女性たちの声が和平を動かした

ですから、2010年代に和平プロセスが具体化に向けて動き始めた時には、女性たちは自分たちの権利を取り戻すための準備ができていました。2005年から現地で活動するUN Womenの支援を受けて、彼女たちは、和平交渉の場へ女性が参加し、平等な発言権を得られるよう求め始めたのです

◇ ネリー・ベランディアさん | 全国先住民族・農民女性協会代表

写真:UN Women/Maria Reyero

ネリーはコロンビア中東部の村の農村地域リーダーとして、若い頃から農民運動に参加していました。あるとき暴力と不平等に最も苦しむのは女性だと気づいたネリーは、「全国先住民族・農民女性協会」に加わりました。農村女性の権利を守る活動を行っていた彼女は、武装組織から絶え間なく殺害予告を受けるなど、命の危険にさらされ続けました。

それでも数十年にわたって活動を続け、やがて協会代表として、2012年10月からキューバで行われたコロンビア政府とFARCの間の歴史的な和平交渉に参加することになります。

「私たちにとって平和とは、土地を守り、食料主権を守り、女性の権利を守ること。それが平和構築の本質なのです」

そう語ってくれたネリーを始めとする16人の女性たちが、ジェンダー専門家として和平交渉に参加しました。その場で平和構築に女性が積極的に関わる必要性を訴え、和平プロセスにあらゆる属性の人たちが参加できるよう求めました。でも変化のスピードは遅く、交渉の初期段階で交わされた基本合意書の中で既に和平プロセスは包括的なものであるべきことが強調されたのにもかかわらず、女性団体が正式に組み込まれるまでには2年以上もの月日がかかりました。

根気強く闘ったネリーは言います。「UN Womenは保証人としての役割を果たし、平和プロセスに参加するためのスキルを提供してくれました。こうした支援を通じて私は政治的に成長できたと感じています。」

さて、ネリーたちが頑張っている頃、国内では—。

◇ マリーナ・ガリエーゴさん | 草の根団体「ルタ・パシフィカ・デ・ラス・ムヘレス(女性の平和への道)」コーディネーター

UN Womenの支援内容:女性のリーダーシップ支援(元ゲリラ戦士の社会復帰を含む)、和平交渉への女性の参加促進、女性のための司法制度の構築、土地返還プロセス支援、国家行動計画の策定支援など。
写真:UN Women/Pedro Pío

その頃コロンビア国内でも、女性たちが和平プロセスの一環として声を上げ始め、国連が支援する地域住民協議フォーラムなどで議論が行われました。

しかし、和平交渉が始まってから1年が経っても、女性たちの要求が交渉の場に届くことは殆どありませんでした。そこで、この構造的な不平等の問題に対処するためには自ら参加することが必要だとして、女性団体はそれまでとは異なる戦略をとることにしました。

彼女たちはUN Womenの支援を受けて、ロビー活動を行い、首都ボゴタで「女性と平和に関する全国サミット」を開催したのです。コロンビア全土から約450人の女性が集まりました。マリーナは、主催者のひとつ、草の根団体「ルタ・パシフィカ・デ・ラス・ムヘレス(女性の平和への道)」のコーディネーターでした。

「私たちは、平和を作ってもらいたいのではないのです。私たち自身が平和の創造者になりたいのです」 

これは、マリーナが、キューバで行われていた和平交渉の担当者に伝えた力強い言葉です。

全国サミットから2週間後、政治参加に関する協議において、「紛争予防、紛争解決、平和構築における女性の重要な役割」が認められ、まもなく、サントス大統領(当時)は2名の女性を大きな意思決定権限を持つ政府代表に任命しました。女性たちの声が届いた瞬間でした。


その後も変化は続きました。キューバでの和平交渉は、武力紛争被害者代表団にも参加の道が開かれ、参加者の60%以上を女性が占めました。そして、紛争解決の分野では前例のないことでしたが、政府側もFARC側も女性の交渉担当者をつけ、被害女性たちとじかに面会したのです。性暴力や強制移動を含む権利侵害についての女性たちの証言は、戦争が女性たちの生活と地域社会に与えた影響を浮き彫りにしました。2014年9月には、ジェンダー問題専門小委員会が設置されました。これにより、あらゆる合意にジェンダーの視点と女性の権利が組み込まれることになったのです

こうしたプロセスを経て、2016年に正式な和平合意が締結された時点では、交渉チームのうち政府側の20%、FARC側の43%が女性で構成されるという、世界でも前例のない男女共同参画が実現しました(世界平均は5%)。

コロンビアの平和構築で女性たちが示した新しいかたち

1. 世界初、ジェンダー視点を完全に組み込んだ和平合意:100を超える約束
2. 紛争当事者双方の女性たちが合意形成に貢献:政府側(20%)、FARC側(43%)
3. 性暴力への恩赦なし:紛争に関連する性的暴力は戦争犯罪
4. 女性が司法を主導:紛争後の司法制度では裁判官の多数を女性が占める
5. 平和の実践:1,500人以上の女性が10カ年国家計画(平和の核心にジェンダー平等を据える)の策定に関与


(出典)

https://www.unwomen.org/en/news-stories/feature-story/2025/07/the-peace-deal-that-put-women-first-what-colombia-taught-the-world

https://www.unwomen.org/en/news/stories/2015/5/women-build-peace-in-colombia