「まるで全世界が加担しているかのようだ」レバノン紛争下で女性たちが経験する避難生活の実態
レバノンで激化する紛争により、数十万人の女性や少女たちが自宅を離れることを余儀なくされています。レバノン南部の2人の女性が戦争の影響について語ります。
2026年4月2日付
「今回は、ここ数年で2度目の避難です。そして、子どもの頃からレバノン南部で繰り返されてきた戦争を忘れたことはありません」とザイナブさん(63歳)は言います。レバノンでの戦闘の激化に伴って、先月自宅を離れることを余儀なくされた女性と少女は62万人に上ります[1] 。
ザイナブさんと夫は、3月初旬にレバノン南部のナバティエから避難してきました。2人は2晩車中泊をし、レバノンのベイルートから15 km南にあるカルデのイスラム大学に避難しました。そこには約390世帯が避難していますが、避難民向けの環境はまったく整っていません。そこで暮らしている人の半数以上が女性と少女で、レバノン南部や他の地域からの避難に拍車がかかるにつれて日々その数は増えています。

紛争や避難によって、女性には男性とは違うどんな影響が及ぶか
紛争や避難は既存のジェンダー不平等を悪化させます。つまり、人道危機の状況においては、女性と少女は常により大きな影響を受けるということです。女性の安全と幸福に対する危険が増し、経済的脆弱性をはじめとする長期にわたる脆弱性が深刻化します。女性と少女は、ケアの担い手や家計の支え手としてより大きな重荷を背負わされます。常にストレスにさらされながら、けが人を世話し、怖がる子どもをなだめ、他の人に食べさせるために自分は食事を抜き、家族をまとめています。

食料、避難所、保健医療へのアクセスは、現在レバノンで避難している家族にとって継続的な問題です
以前は仕立て屋をしていたザイナブさんには、慢性的な心臓の持病があります。また、糖尿病とその他の合併症のある夫の一番の介護者でもあります。避難してきたばかりの多くの家族と同様に、まともなベッド、暖房、基本的な必需品のない状態のまま廊下で寝泊まりしています。
避難所の食事は一日一食で、コメかジャガイモかパスタだけだと言います。タンパク質はほとんどとれません。赤ちゃんのいる家族はミルクやおむつが不足しています。
「ここには枕すらありません。体を洗うお湯もないし、靴下もありません。私たちは2人とも薬が必要ですが、どうやって手に入れたらいいのでしょう」とザイナブさんは問いかけます。
ザイナブさんは、同じナバティエ出身のハディルさん(28歳)に話しかけます。世代は異なる2人ですが、それぞれの経験と苦難、置かれた状況に対しての思いを通して絆を深めてきました。
「ナバティエに戻ろうと思います、そこで死ぬために」とザイナブさんは言います。そして、夫に呼びかけて震え出しました。「戻って自分の家で死にましょう。こんな状況にはもう耐えられない」。
ハディルさんはザイナブさんの話を聞き、なだめようとしますが、ハディルさん自身も同じような気持ちを抱いています。ハディルさんは紛争が始まって数日後、勧告を受けて家を追われ、両親と姉妹とともに避難所にたどり着きました。両親は病気で、主にハディルさんが介護をしています。大学で人文科学を学んでいましたが、家での介護の負担が重かったために、学位を取ることができませんでした。

避難所は女性や少女にとって安全なのか
避難によって、女性と少女の安全に新たな危険が生じます。現在、レバノンの避難民の女性と少女の85%以上が避難している [2] 非公式な住居、そしてプライバシーがほとんどない過密状態の避難所において、女性はハラスメントやジェンダーに基づく暴力にさらされやすくなっています。暴力のリスクが増大しているというのに、保護や司法のサービスへのアクセスはますます制限されています。女性は外出を控え、公共の場を避けるようになり、そのため支援へのアクセスがさらに狭まります。
「女性であるがゆえに、ここではあらゆることがより困難になります」– レバノンの避難民女性にとっての困難の増大
ハディルさんにとっては、避難所での生活必需品の不足よりも、プライバシーがほとんどない場所で若い女性として生活することの方が困難です。「どうしようもないという気持ちです、もう力尽きてしまったという感じです。女性であるがゆえに、ここではあらゆることがより困難になります。十分な衣服や必需品がなく、このような状況下でどうやって生き続け、強い気持ちを保てばいいのか分かりません」とハディルさんは語ります。「もっと良い避難所を探していますが、見つけることができていません」。
届けたいメッセージを尋ねたところ、ハディルさんは「今は誰に対するメッセージもありません、まるで全世界が加担しているように感じるからです」と言いました。
レバノン政府は国内に660を超える集団避難所を設けており、そのほとんどは公立学校の中にあります。13万6千人以上の避難民が現在そうした避難所で暮らしていますが、収容率が90%を超える過密状態で、女性と少女にとっての危険は増し、ニーズに応えられていません。社会問題省が支援しているイスラム大学の避難所もまた、スペースと資源の面で大変切迫した状況にあります。地域の女性主導団体であるアルシューフ開発協会(Al-Shouf for Development Association)など、地域の団体が医療支援を提供してはいますが、より幅広い人道支援は限られたままです。
UN Womenが現在レバノンで行っていることは
人道支援の現場におけるジェンダー平等推進という使命と、人道活動の中核となるという決意に基づいて、 UN Womenは、あらゆる背景を持つ女性や少女の差し迫ったニーズに向き合うため、支援を拡大しています。危機に直面している女性と少女に対する命を守る保護と生計支援の提供、人道危機対応全般におけるジェンダー平等への取り組みに対する説明責任の強化、意思決定の場面における女性の声とリーダーシップの増強などを行っています。
UN Womenはレバノン各地の多くの避難所で活動しており、危機の影響を受けている女性とその家族に対する支援を強化するため、今後数週間のうちにさらに活動を拡大する予定です。
*注: 個人の特定を避けるために本名は伏せてあります。
[1] UN Womenによる推計
[2] UN Womenによる推計
(翻訳者:早乙女由紀)
※ 翻訳者の方々が、ボランティアでUN Womenの記事を翻訳してくださっています。長年のご協力に感謝申し上げます。
